FUNKY'S HIGH Drag Star 1100


こいつを選んだ理由・・・なぜ、おれはコイツに乗るようになったのか?
 
「やっぱドリフトだよな〜」
「なに言ってんだ!、F1だろ!」

高校生の時は、車にハマっていた。18歳で免許を取り、派手に乗り回していた。ただ、色々あって、あっけなく走り屋はやめた。あんなに走るのが好きだったのに。

で、昔から欲しかったバイクの免許を取った。たしか20歳かな?
はじめに乗ったのはGSX-R400。エンジンがモーターみたいで、速いってのなんの。でも、欲しかったのはネイキッド。で、XJR400を購入。こいつはイイやつだった。

当時北海道のとある町に住んでいたオレを、初めて北海道外へ連れていってくれたヤツだ。
ただ、それは、東北道のパーキングでガキの飛び出しにフルブレーキングし、ロック、でコケてしまって、惨めな思いをして帰ってきた夏だった。

その後、川崎へ引っ越し、思いつきで九州最南端まで連れていってくれたのもこいつだ。
他にも色々想い出がある。

ただ、こいつとの別れも、あっけなくやってきた。


・・・あれは、忘れもしない1月27日の夜の事だった・・・

「ちばちゃん、ウクレレあったよ。中古で2000円」
当時ウクレレを欲しかった自分は、三鷹の友達のその言葉に胸を踊らせていた。
店からそれを買い取ってもらい、友達の家へ取りに行き、タンデムシートにくくりつけた。

「さあ、今日からオレはウクレリストだ!」

湘南海岸で、彼女の隣でウクレレで弾き語りをしている自分を想像しながら、甲州街道をぶっ飛んでいた。

「うっ!」

突然、前方を猫が横断する!
反射的に急ブレーキ!
「ん?!」
視界にイヤなモノが映り込んだ!
(なっ、潰れたコーラの缶がっ!)
しかし時既に遅し。ちょうどフロントフォークがフルボトムした瞬間、それに乗り上げた!
時速80km以上、前輪がいとも簡単に滑り、斜めに倒れていく。瞬間的にバイクを蹴り、路面に伏せた。
(ああ、オレの人生って・・・)
スーパーマンが飛んでいるような格好で、その逆、つまり進行方向に足から、路面を滑る。
つま先を立てて、前腕で支え、体が直接触れないようにがんばる。
(オレのバイクは!)
振り返り進行方向を見ると、火花を散らして滑っている物体がある。


・・・何十メートル滑っただろうか?滑り終えてすぐに立ち上がり、バイクの元へ。
ちょうど、交差点の前に、愛車が横たわっていた・・・。


幸いウクレレは無傷だったが、愛車は半身ボロボロ。

直線で、さらに後続車が来ていなかったのは、きっと誰かが守ってくれたのだろう。ツイていた。

「・・・そうか。きっとバイクの神様が、自分の走りを見直せって、怒ってるんだな・・・」
なんとなく、直感し、あるバイクがイメージされた。ちょうどモーターショウで発表された写真を見て、これは!と思ったバイクがあった。

 「YAMAHA Drag Star」

夕日色のその体は、何とも言えないほど、優雅な流れを感じさせた。


・・・数日後、部品を購入し、直しても、査定は変わらないと言われ、XJR400は、引き取られていった。そして、初めてのアメリカンバイク。

「なんてポジションだ! おまけにシートが低い! でも、なんて開放的なんだ!!!」

400ccのアメリカンなんて、トルクもパワーもチキンやろーだ。でも、それを気にさせないほどの爽快感があった!

「ハマった・・・」

今までのバイクに対する価値観を覆された。
「こんな世界があったなんて・・・」

なにか、バイクって世界や、バイク乗りの価値観ってのは、一般人とは少し違う、独特のモノだった。ただ、こいつはそれを感じさせなかった。ちょっとそれらしい格好で、渋谷へ買い物に行っても、全然カッコイイじゃねーか!

こいつには、ムズカシイ訳解らない理屈なんていらない。いとも簡単に、日常に溶け込める。


後ろに彼女を乗せて安心して走るために、シーシーバーも付けた。荷物を入れるサドルバッグも付けた。都会を、軽い気持ちで走りたかった。
フルフェイスしか被ったことのなかった自分が、半キャップとシェードで、渋谷でも、表参道でも、代官山でも、バイク乗りとしてではなく、普通の人と同じように散歩できる。

もちろん、ロングツーリングへも行ける。荷物は満載。便利なノリモンだ。



ただ、こいつとの別れも、あっけなく訪れた。

たった一つだけ、ロングツーリングでの非力を気にしていた。
北海道に転勤し、都会を走ることのなくなった自分にとって、もっと大らかに走ることも魅力の一つになっていた。

まだ寒い、北海道の3月。バイクに乗りたいと言っている後輩を、帯広のレッドバロンへ連れていった。

そして、DS11。

スタイリングはDS4の方が好きだった。夕日色も。それじゃあ、カスタマイズすりゃいい。
商談は5分とかからなかった。


納車の日、車検の切れているDS4と、最後のショートトリップ。店に着くと、新しい相棒が待っていた。

多くの時間を共にした、夕日色の車体を眺めながら、右手で触れた。
「世話になったな。最高にイイヤツだったよ。ありがとう。じゃあ、な。」

一生乗りたいと思っていた。でも・・・。人間って、勝手だな。

金を納め、キーをもらった。

「さあ、新しい相棒、これから頼むぜ!」

力強いトルクで、こいつは走り出した。



北海道という広大なフィールドで、こいつは頼もしいヤツだった。友達のZX-9Rと走っても、それほど迷惑を掛けることなく走ることが出来る。DS4だったら、かなりきついだろう。
ロングツーリングで荷物を満載しても、全然へこたれない。北海道から川崎まで、何往復しただろうか?

横浜に引っ越してからも、今まで通り、こいつは頼もしいヤツだ。日本一周に連れていってくれたし、新しい仲間との出会いも、こいつのおかげだ。

残るは、後ろに乗って、時間を共有してくれる人間だけだな・・・(笑!・・・寂。)