Rider's high - 第9章

「へー、東京からきたん、えーなんでー」
「いや、こいつが遊びに来いってゆーから来ちゃった。バイクで15時間くらいかな?」
「えーっ、バイク乗りたーい」
「えーマジー?あーあ、こいつん家に置いてきたんだよなーっ、あー、やっぱバイクで来るんだったなー」
「えー乗りたいなー」
「おっ、ホントに乗る? じゃあ、明日とかどーだ?」「乗りたいーっ!」

「・・・えー、オレもバイク乗るんだけど」
タカシくんが割って入る。
「えーホントー?」
「おー、よしもとー、おまえバイク何処にあるん?」
「えっ、いやっ、と、東京に・・・」
「ハーィィ、サンキュー、バイバーイイッ」
「ファッーーーククッ!!」

こいつらアホだ。でもそれが楽しい。ビールも格別だ。みんなも少しアルコールがまわってきて御機嫌だ。風も気持ちいい。気が付くと、周りに建っていたテントはほとんど無くなっていた。暗くなった空には星と月。

「そろそろうちら帰るわー」
マツとミキオは帰るらしい。そうだな、身重な体だから、こんな所で寝てられないし。
「きーつけてなー」
「そんじゃ、先輩も」
二人減ったが、酔いのまわったバカどもは、静まることを知らなかった。突然海に飛び込むヤツ、でそれに触発されて一緒に濡れるヤツ。ホント、男ってガキだな。

気が付くと、ワタが一人を誘って暗いビーチへ散歩に出かけた。


「きゃー」
しばらくして、暗がりから悲鳴が聞こえた。
ドッパーンンッ!!

なんだなんだ??
暗がりからワタと女の子が濡れ濡れで現れた。
「どーしたん?」
「ははは、キスしようとして飛びかかったら、よろけて海に突っ込みよった」

・・・こいつはホントにアホや・・・
「あ、ケータイが濡れよった、電源入らんよ。」
「あーあー、マジー? ワタ、やばいよー」
「ごめん、オレ弁償するけー」
おいおい、せっかくケータイの番号聞いたのに、これじゃあ連絡とれないじゃねーか。

そんなことがあっても、バカどもはうるさい。
「おらー、待てやこらーっ!」
「うおっ、まっ、まじかーっ!!パンツ履いてねーぞっ、来るなーーーっ!うおーーーっ!!怖えーーーーーっ!!」
酔っぱらったフジが追いかけてくる。
自分のモノで見慣れてるが、他人のモノは非常に怖い!


・・・一段落付いたところで、女の子が波打ち際で何かを見つけた。
「ねえねえ、光っとるよー、なにこれ?」
「おあーっ、なんやこれ?」
海の中で、青白い小さな光が、光ったり消えたりしている。透明なプラスティックのコップに光る物体を取って入れてみた。

「・・・虫だ、これ。」
コップの中で、光る虫が泳いでいる。
「夜光虫だっ、夜光虫!」
そうだ、昔、テレビだろうか、見たような記憶がある。光を放つ小さな虫の事を。

「初めて見た。こんな穏やかな海じゃなきゃ、見れないなぁ」
ホタルとか、なんか、光と放つ自然のものって、なんとなく不思議で、感動だ。夜光虫なんて初めて見た。ホタルが見たくて、よくホタルツアーなんて言いながらツーリングへ出かけたもんだ。


・・・騒ぎ疲れて、少し静かになってきた。気が付くと日付もかわっていた。

「そろそろ帰るー」
二人の片割れ、花子ちゃんは明日仕事らしい。 しかし、運転手の方が酔っぱらって、ワタと一緒にビーチベッドで寝てしまった。
「もー帰るよー」
「大丈夫か?オレ運転していこうか?」
「大丈夫ー」

結局酔ってない花子ちゃんが運転して帰ることに。
「ちゃんと帰れますかね」
「うーん、酔ってない方は大丈夫なんじゃないの?」
「でも、どっかでガードレールぶち破って事故ってたりして」
「うーん、そりゃやばいな。オレらの責任か?」
「でも、どーしようもないしな」
「そうだな、ケータイも壊れたし、もう連絡取れないなー」
「もう会うこともないっすね・・・」

せっかく聞いたケータイの番号も、彼女のケータイが壊れたんじゃ、かけても無駄。ワタのバカやろう。

「あー、楽しかったなー」
「でも腹へってきてない?」
「そうっすねー」
「焼きますか!」
少しの肉と焼きそばを焼き始める。

「おー、焼けてきたぞー」
「いいねー、ビールは?」
「もうこれしか無いです」

彼女達が帰った後は、しんみりと、仕事の事や、昔話を話す。そのうち眠たくなって、みんな寝てしまった。


「・・・ぐぉぉぉぉぉぉー、ぴゅーーー、ぐぉぉぉぉぉー、」

・・・うるせえ。

おい、タカシくん、うるせえって。いつもこいつのいびきで寝られない。こいつとキャンプに行くと、必ず何か迷惑をかけられる。頭にきたので、テントから出て、ビーチマットで寝ることにした。
「おおっ、月を眺めながら寝るなんて、いいかもな」

月や波の音は気持ちよかった。が、体の上を、ダンゴムシみたいなヤツが這いずり回って、何度も起こされた。

空がほんの少し明るくなった頃、物音で目が覚めた。
「ん・・・?どうした?」
「わしら帰りますよ、仕事じゃけー」
フジとミトが自分達の荷物を片づけていた。一服しながらそれを手伝う。奴らの荷物を全て積み終わると、テントの周りはかなり寂しくなった。ほとんどが奴らの荷物だったんだ。

「じゃあ、またいつかな」
「先輩も元気で」
二人が帰った後、再びダンゴムシと一緒にビーチベッドで眠りについた。


「・・・今何時だ?」
目を覚まして時計を確認する、が、時計が無い。そうだ、お気に入りのG-SHOCK、いや、C-SHOCKは、昨日壊れて砂に埋めてしまったのだ。
「ワタ、何時?」
「えー、8時半」

「ぅあ〜っす」
タカシくんが起きてきた。相変わらずボケ面の寝起きだ。
「あれ?なんか寂しくないっすか?」
「フジとミトは朝方帰ったよ、荷物持って」

「・・・なんか、すっげーさみしーっすね。」
荷物は半分以下にへって、ビールも、食い物も、なんにも無い。タバコも全員で5本くらい。全員で自販機まで歩く。

「今日どーします?ここで遊びます?」
「うーん、どーする?」
「あれ、女子大生は来るのか?」
そうだ、今日は女子大生が合流する予定なんだ。

テントへ帰って、ワタが電話する。
「・・・あー・・・、そー・・・、おー・・・、じゃー・・・。」

「どうよ?」
「来ないって。」
「・・・」
「・・・」
「。。。」


・・・帰ろ。


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