Rider's high - 第8章

「ふーっ、腹減ってきたなー」
遊び終えて、またビールだ。壁際を見ると「フジ」が炭を炊いている。だいぶいい感じだ。
「そろそろ焼き鳥でもしましょうか」
熱の強そうなところを利用して、焼き鳥を焼き始めた。

太陽はだいぶ西に傾いている。夕飯にはいい時間。ビールと焼き鳥と、白い砂浜と優しい風、楽しい奴らと風来坊。この先の時間も、絶対に楽しいだろう。うん。
クーラーから肉を取り出し、網の上で焼き始める。ビールを片手に焼けるのを待つ。

「いやー、ふぁんきーさん、チキンだなー、全然来ないんだもん、もっともっとー」
「いやっ、あれはダメだってー、高校生だろー、ありゃー」
「えー、ナンパしたんですかー?」
「そうよ、ヨシモトがなんか女の子に声かけてよー、なんか高校生みたいな若いやつでよー、結局振られてきたけど」
「いやっ、違うってっ、親戚のおばさんと来てたからダメだったんっすよー、いやー、惜しかったなー」
「おー、ヨシー、あっちの方にも女の子2人いるじゃろー」
「えっ、どこどこー?」
「なんかあっちの奥の方に」

ヤローどもみんなで身を乗り出して探し出す。ほとんどの男は、こんな時に女を探すのが普通だ。もちろん先輩も同じだ。

「いないなー」
それらしい人影は見あたらない。ちょっと残念だが、いい匂いを出し始めた焼き鳥と、ビールと、タバコで、真夏の夕暮れ時を楽しむ。人間以外の全てのものが凪っている感じだ。
数時間前までは完全な他人だったタカシくんの友達とも、すっかり馴染んできて、ごく普通の感覚で会話を楽しんでいる。まあ、相変わらず「先輩」の呼び名は変わっていないが。

「ミキオちゃん、今何ヶ月なん?」
「4ヶ月くらい」
「ふーん、じゃあだいぶ落ち着いてきたってとこだな」
「そうなんよー、でもまだちょっと気分わるーなるときあるけー」
「ちょっと前なんか、すごかったんですよー、うぉぅえーっ!って、なんか口から出てきそうな感じで」
「そうそう、すごかったんよー」

ミキオの腹を見ると、全然普通だ。本当にこの腹の中に赤ちゃんがいるのか?ただ単にクソ、いやうんちが溜まっているだけなんじゃねーか?なんだか不思議だ。この歳で独身の先輩にとっては、結婚や出産なんて、予定もなければ計画さえしていない。想像してもすぐには答えが出てこない。

「おっ、あれじゃねえ?」
ふと見ると、女の子二人が少ない荷物をもって歩いている。もう帰るのか?
「ねえねえ、どこいくん?もう帰るの?ちょっとこっち来て飲まん?焼き鳥もあるけー」
ワタが先陣を切って声を掛ける。続いてタカシくん。
「ハーイイ、こっちこっちー、えー、ビールでええ?」

オレが女なら、こんな奴らの誘いには乗らねーな。目が血走ってる。危ねえ。
しかし、予想に反して、女の子二人は恐る恐る近寄ってきた。
「はい、イスに座ってー、はいはい、じゃあ、ビールでええ?」

おお?なんだか調子いいんじゃねーの?一人は先輩よりデカイか?ちょっとヤンキー入ってるかな?もう一人は、うーん、花子ちゃんって感じかな?うん、今度は高校生じゃないみたいだ。これなら大丈夫。って何がだ?。

「はいビール、焼き鳥もあるけー、食いんさい、食いんさい」
「ねえねえ、どっから来たん? えー、同じじゃけー、オレらも岩国!」
タカシくんのテンションが上がってきた。タイミングのいいことに焼き鳥も焼けてきて、旨いビールはまだ腐るほどある。ワタもタカシくんも、目が輝いている。まるでこの時のために今まで生きてきたようだ。

タカシくんにとっては、さっきの高校生みたいなのに振られた雪辱戦だ。
「泳ぎに来たん?」
「ううん、水に浸かっただけ」
「えー、泳がないの? せっかく来たのに、泳がんとー」
「うん、泳ぎたかったけどー」
「水着ないの? 泳ごー泳ごー!」

二人は顔を合わせる。
「えー、うん、じゃあ泳ぐ。 ちょっと水着もってくるけー」
そう言って車へ戻り、しばらくして荷物を持ってきた。

「はい、じゃあこっちのテントで着替えてー」
大きい方のテントに入って生着替えだ。そう、生だ。タカシくんは勝手に興奮している。
そっ、そして、テントから出てきた二人は、ヤバすぎるほどの凄い露出度の水着だった!!
・・・なんて想像とは反対に、上には服が・・・。それでもタカシくんは盛り上がってる。
「おーっし、楽しくなってきたー!」
タカシくんとワタと女の子二人はビーチマットを手に、海ではしゃぎだした。

「ふぁんきーさん、こっちこっちー!なにくつろいでるんすかー!」
「おー、今行くー!」
誘われて黙っているほどオヤジじゃない。ぶっ飛びだっ!

「オラーッッッ!!」
「きゃー!」
「ファーック!!」
「うち泳げんけー!」
「競争!競争!」
「待てやこらー!!」

ああっ、またぶっ壊れてしまった。でも許してくれ、夏がオレをそうさせるんだっっ!

30分ははしゃいだだろうか。疲れてきたので浜へ上がり、一服。
「あー、楽しー! ねえふぁんきーさん、最高っすねー」
「おー、来て良かったなー!」
やっぱ夏は最高だ!そして、男にとって女の存在ってのは、無くてはならないもの、そう、納豆にかける醤油だ。うん、いつも心のどこかで求めているのは、女の笑顔なんだ。きっと。

そういえば、このキャンプ、明日には女子大生が来る予定。らしい。タカシくんはそれを楽しみにしていたから、まあ、その楽しみが早めに来たようなもんだ。

気が付くと、さっきまで夕日に照らされていた空は、いつしか紫、そして藍色へと変化していた。


第7章へ    第9章へ