Rider's high - 第10章

楽しかった昨日とは、比べモノにならないくらいの寂しさだ。なんか静か過ぎる。そうか、今日って、平日だったんだ・・・。
「なんか腹へらん?」
「どっかええとこで食おうか」

半乾きのジーンズを車の窓から出し、風になびかせる。楽しかった逗子ヶ浜ともお別れだ。
「おー、風呂入ってかん?」
「いいねー」
逗子ヶ浜から少し戻った所で、島の反対側のビーチの日帰り入浴可能な風呂へ入り、ほんの少しだけ一服。
で、腹が減っているのですぐに出発した。

大島から本土へ戻り、海沿いのラーメン屋で昼食だ。車を降りると、暑い。やっぱり夏は最高だっ!4人で冷やし中華を食いながら、今後の予定を相談する。
「これからどーするん?」
「ミホちゃんのケータイ壊れたしなー」
「電話したん?」
「おー、ダメだった」
「えー?ちょっとまってー!せんぱい、なんで知ってんの?」
「んなもん、最初に聞いといたよ」
「うー、知ってんのオレだけやと思った・・・」

結局、ミホちゃんのケータイ番号を知ってるのが、自分だけじゃないと知ってチキンになっているワタの部屋へ、4人で上がり込むことに。

「なにするー?」
「釣りでもするか?」
「やらん」

「映画見る?」
「見ねぇ」

「酒飲む?」
「飲む」

おもしろくないテレビを見て、酒を飲んで。
「オレそろそろ帰る」
1時間くらいぐーたらして、マッキーが帰った。

「・・・うちらも帰りましょうか」
「あ、ワシも行くけー」

ワタも車を出して、タカシくんの実家へ。ヨシモト夫妻はまだ帰ってきていない。
「疲れましたねー」
「あー、少しゆっくりするべー」
コーヒーを飲みながら、一服をする。

ケータイのメモリーに入っているミホちゃんの番号を眺め、発信ボタンを押してみた。
「もしもしー?」
「あれー?ミホちゃん?えー?ケータイなおったの?」
「うん、店で違うのに替えてもらったけー」
なんちゅータイミングだっ!やっぱり夏はサイコーだっ!

どうやらミホちゃんは近くに居るらしい。ワタが謝りたいから、ここまで来てと言う。
「わかったー」
マンションの10階の廊下から、白いワゴンRを探す。ワタは待ちきれなくなって下へ降りていった。
「おっ、あれじゃねぇ?」
下へ降りると、昨日の女の子だ。結構可愛いじゃねーの。

「ケータイは弁償するけー」
「ううん、いい」
「じゃあ飯おごるからいかん?」
「どーやって行く?」
「ワシの車、荷物積んでるからダメじゃけー」
「じゃあ、ミホちゃんの車でいこーか」
「うん、いいよー」
「じゃあ、ワシ車置いてくるけー、ミホちゃんついてきて、でミホちゃんの車で戻ってくるけー」
ワタは自分ちに車を置きにいった。
「おー、よしもとー、オレもちょっと走ってくるわー」

せっかく岩国の夏なのに、バイクを置いて車でキャンプに行ったから、欲求不満が溜まっていた。
「ひゃっほーっ!」
やっぱり夏の乗り物はこれしかない。車の何百倍も楽しい。そして、見知らぬ土地を走るのは、新鮮で、なんとも言えない心の高まりを感じる。それを、自分の最高の相棒と一緒に感じられるなんて。

ぶらついていると、ポケットの中でケータイが震えていた。
「ふぁんきーさん、ワタ帰ってきましたよー」

マンションの前に帰ると、タカシくんが立っていた。
「山賊ってとこに行きますんで、ついてきて下さい」

15分くらい走った所に、その店はあった。結構な賑わいを見せている。
「とりあえずビール!」
男どもは懲りずに飲む。ミホちゃんは昨日の酒のせいで、今日は酒を見ると気持ち悪くなるって、飲まなかった。そりゃ、ぶっ潰れるまで飲めばね。
「おすすめってなによ?」
「山賊焼きってのがウマイっすよ」

ビールとウマイ食いモン。外で食うのは格別だ!夏って、最高!


たっぷり食って、駐車場に戻る。
「おー、よしもとー、バイク乗ってくかー?」
「おお、いいっすねー、じゃあ交替しましょー」
「じゃあオレは助手席ね」
夕暮れの山口県を、ゆっくりと走る。
なんか、いいよなー。ホント、いい時間の流れだよ。

・・・しかし、タカシくんがオレのメットを被ると・・・ぷぷぷ、似合わねぇ。マンガに出てくるカメの兵隊みたいだ。


再びタカシくんのマンションの前まで帰ってきた4人。
「これからどーするー?」
「釣りするー?」
「わー、したいー!」
「マジーッ?」
「じゃあ行くー?」
「うん、でもバイク乗りたーい」
「じゃあ乗るー?」
「うん乗りたーい!」
「でもメットないぞ」
「んー、家帰ったらあるけー」
「じゃあ取りに行くかーっ!」

タカシくんとワタに釣りの準備をさせておいて、ミホちゃんの車の後を走る。10分くらい走って、ミホちゃんの家の近くへ。
「せんぱい、ここで待ってて」

少し離れたところに駐車して、バイクの上に寝転がって星空を眺める。なんか、充実してる夏休みだ。夏の短かった田舎での夏の過ごし方とは、全く違う。夏が好きな自分には、こんな過ごし方は楽しくてしょーがねー。

「せんぱーいい」
「おっ、じゃあ行くか」
後ろに女を乗せるのは久しぶりだ。別れた彼女以来だな。それも、東京から1000kmも離れた所で乗せるなんて、なんか変な感じ。
「きもちいー!」
「さいこーだろ?」

ゆっくりとマンションまでの道を走り、タカシくんと合流。コンビニで買い物、そして、港へ。
「おー、竿はー?」
「これいいですよー」
「なにで釣るん?」
「ルアーです」
「・・・こ、こんな夜に普通のルアーで釣れるんか?」
「まあいいじゃないっすかー、雰囲気ですよ、雰囲気」

まあ、もっともだ。本当は釣りなんて、どーでもよかったんだ。ただ、なんか楽しみたくって、魚を釣る事が目的じゃなくて、夏の夜に、外で、軽く飲みながら、話でも。ただ、それだけ。

「じゃあ、ビールいこーか」
またビールを飲む。ホント、飲んでばっかりだ。

なんか、心が楽しくて、東京の騒々しさとは違った、そう、高校生くらいの時の、なんとも言えない感触だ。友達と、夏の夜に、なにか、夢を語り合っていた、あの頃のような。
「岩国って、いいな」
「そーでしょー、遊びに来てよかったでしょー」
「おー、よかったよ、ホント」
「せんぱい、なんで岩国来たん?」
「いや、なんか話してて、じゃあ行くわって」

考えてみりゃ、考えないで行動した方が、なんか楽しい結果が待っているようだ。何が起こるか予想出来ないから、なんか、そんなワクワク感が好きなのかもしれない。人生、死ぬまで冒険だ。

「おー、誰か釣れた?」
「いやー、全然。あそこで魚跳ねてるんすけどねー」
「やめたやめたー!」

そそくさと竿をしまって、座り込んでビールを飲む。
「なんか平和だなー。高校の時とか、こんな感じで遊んでたよ」
「せんぱい、高校も東京?」
「いや、オレは北海道出身」
「へー、そーなんだ。せんぱい、東京楽しい?」
「おー、楽しいぞー」
「なにして遊ぶん?」
「まあ、色々。こーやってアウトドア系とか、六本木で飲みまくったり、色々。遊びに来いよ」
「えー、行きたいけどー」

他愛もない話しと、気持ちのいい風で、時間が過ぎていった。
「そろそろ帰るか」
結局なにも釣れず帰る。まあ、何とも言えない、なんとなく懐かしい感触を味わえたから、楽しい釣りだった。

ミホちゃんを後ろに乗せ、少し肌寒い道を帰る。そして、彼女の家の近くでお別れ。

「また遊びに来てね」
「バイクじゃ来れんぞ」
「そっか・・・、電話してね」
「電話してどーすんねん、こっち来れんぞ」
「そっか・・・」
「じゃーな」

タカシくんの家への帰り道は、さらに肌寒く感じた。さっきまで後ろで感じていた温もりが無くなったせいか?

遊び疲れて、その日はすぐに眠ることができた。今日はいびきも聞こえなかったし。


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