Rider's high - 第7章

「・・・ぉあょーぅっす」

外は晴れ。夏らしく、最高だ。タカシくんと目覚めのコーヒーを。陽射しは強そうだ。なんか、こんな感じのコーヒーは、いい。まだ少し眠い、起ききってない体に、真夏の陽射しが、そう、今日も楽しくなりそうだと感じさせる、そんな中での、初めの一杯。

「とーさん、今日車使うけー、いーやろー」
「えー、孝士くん、危ないから、大丈夫? ねえお父さん」
「大丈夫だって、そんな変な運転しないけー」
「でも、孝士くん、だめよー気を付けないと、ホント危ないから」
「大丈夫だってっ!」
「なんだ、タカシくん、信頼ねーなー」
「えー、いやっ、そんなことないんすよー、もー心配性なんだからー」

おいおい、大丈夫なのか?タカシくんは車の運転技術を信頼されていないらしい。お母さん、お父さん、両方からバッシングだ。オレもタカシくんの運転はちょっぴり心配だ。

「じゃあ、お父さん会社いくから、孝士、安全運転するんだぞ」
最後まで信頼されないままであったが、何とかキーを借りることが出来て、荷物を持って出発。マンションの前の駐車場で、釣り道具満載の車内を適当に片づける。ヨシオの釣りの腕はかなりのものらしい。なんでも、どこかのデカイ大会で優勝するくらいの腕だと聞いた。そんなヨシオの大切な釣り道具だ。丁寧に扱わなければ。

オレも昔はよく釣りをした。渓流釣りが好きだったオレは、特に「テンカラ」を好んでいた。しかしここ数年は全く竿を握っていない。今度道具でも買ってくるかなどと考えながら、今日の展開を想像した。

「どこ行くん?」
「先に友達の所に行かないとダメなんで、いやっ、すぐ近くなんで。そのあと他のメンバーと合流して・・・」
お父さんの釣り専用カローラにキャンプグッズを積み友達の所へ。のほほんとした岩国の街を5分も走らないで友達のマンションに到着した。オレを車に待たせ、タカシくんは友達を呼びに行く。

・・・暑い。9時30分。すでに外は真夏の陽射し。外に出る。うおっ、暑い。でも最高だ。なんで夏が好きなんだろう?? どこか間延びした雰囲気のこの岩国の、でも、夏を満開に感じさせるこの空間は、最高だ。青い空。ムンムンするアスファルトの照り返し。ほんの少しだけ感じる風。ゴミにたむろするアリんこ・・・

「あーっ、先輩! 行きますよー」
ななっ、なんだなんだ??先輩??
「あっ、ふぁんきーさん、友達のワタ、この人、オレの先輩のふぁんきーさん」

ちょっとひょろ長くて、若そうな顔立ちの友達。なんとなく、山口ヤンキーって感じの味がついているような、そんな感じ。さっそく3人でヨシオの愛車に乗り込み、待ち合わせの場所へ。混み始めてきた道を、ちょっと運転に心配な男の車が走るフラフラと進む。

「ここがベースですよ。外人居て・・・、・・・ここがヤンキーばっかりの高校で・・・で、あれが・・・です。」
適当に説明されながら、待ち合わせのスーパーの駐車場へ。ちょっと遅刻だ。無事駐車できたタカシくん、でも、全然白線に合ってない。そこに待ちわびたようにタカシくんの友達が寄ってくる。熊みたいなヤツ、たのきんトリオのよっちゃんみたいなヤツ、女の子一人とその他大勢。

タカシくんは久しぶりって感じで話しながら、みんなでぞろぞろ店へ入る。あーだこーだ言いながら買い物をするが、部外者の先輩には誰が誰だか全然分からん。適当に後を付いていくと全然知らない集団だった。

「う〜ん、大丈夫かな?」
また異次元だ。タカシくんを探し歩いてゆくが、みんな異次元の言葉を喋っている。岩国弁ってやつだ。岩国人と付き合いが長いので分かるには分かるが、これだけ周りが全員喋ると、う〜ん、やっぱ異次元だ。そんな奴らに紛れながら、たっぷりと食材を買い車に載せる。

「あー、クーラー足りないなー」
「おし、ヨシモト、発泡スチロールもらってくるぞ!」
スーパーの裏にある発泡スチロールをクーラー代わりにするのだ。
辺りを見回すと、あったあった。近くで働いているアルバイトの兄ちゃんに許可を得て、きれいどころを探す。
「おっ、これはっ、どれどれ? ウッップス!、くっせーっ!」
どうやら魚が入っていたらしい。他のきれいなヤツを探し、3箱のクーラーをタダでゲット。あとはホームセンターで色々漁るだけだ。車4台で並んで出発。

そして数分間走ると、すぐにホームセンターへ着いた。
「おっ、そうそう、浮きグッズが欲しいなー」
そう、ビーチベッドでプカプカ浮かんで、ビールでも飲みながら日焼けを、そんな事をしたかったのだ。しかし、無い。売ってない。

仕方ないので途中のコンビニへ入った。まあ目的は浮きグッズではなく昼飯なのだが。
クーラーの効いた店内で物色する。熊みたいなヤツとその彼女は弁当を買うが、タカシくんと先輩は・・・昨日の焼き肉がまだ腹の中に残っていた。2人ともジュース1本のみ。おまけに浮きグッズはない。まあいい、海の家にあるだろう。
他の2台はコンビニに寄らず先に進んでいる。こちらも急がねば。

・・・カチカチカチ・・・カチチ・・スコスココ・・スコ・・・

「ダメだ。エンジンかからんわ」
熊みたいなヤツの車のエンジンがかからない。バッテリーかダイナモか、まあジャンプすりゃあ簡単にかかる。ここは田舎育ちの男ばかり。手際よくタカシくんの車を横付けし、バッテリーをコードでつなぐ。
「キュルキュルッブオオオオオオン!」
ナイス!こんなトラブル屁でもねえっ!さあ、行くぜっ、野郎どもっ!

熊みたいなヤツが先へ、タカシくんが後ろを走る。夏休み時期だからか、道はかなり混んできている。はぐれないようにと思っていても、途中のT字路で車が2台の間に入り込んだ。

「おうおうっ、こんな時は入れんなよ、続いて入っちまえ」
やっぱりタカシくんの運転は心配だ。案の定、次のT字路の信号で取り残されてしまった。
「あちゃー、離れちゃうよ。道分かってっか? おっ、待ってる待ってる」
T字路を曲がった先で熊みたいなやつの車が路肩で待っていた。これで迷子にならなくて済みそうだ。

信号が青になり、タカシくんは慣れた手つきで、当たり前のようにパッシングして熊みたいなヤツの車へ合図を送る。ハズだ。

「・・・ドピュッピュッピュッ!!」

「ははは、アホやー、こいつー」
「あははは、あはっ、まっ間違えたっ!」
・・・そっちのスイッチはライトじゃなくて、ウインカーだって。やっぱりアホや。ヨシオとセツコの心配している顔が浮かぶ。うーん、このまま生きてキャンプ場までたどり着けるのだろうか。そんな心配している先輩の気持ちをよそに、タカシくんはごきげんである。

少し走り、橋を渡る。眼下には瀬戸内の海。なんだか盛り上がってきた。橋を渡って、とうとう瀬戸内の島へ。左へ曲がり海沿いの道を快適に走る。

「お、おおっ?! おー、きれいじゃねーかー! なんだ、いいねー!」
「そーでしょー、もー、だからきれいだって言ったのにー」
なんとなく期待してなかった。瀬戸内の海なんて、どうせ工場の排水とかがたくさん出てて、こ汚いんだろうって。でも、いい感じだ。

よく見ると、砂浜が白い。そうだ、そうなんだっ!先輩が育った北海道の海は、外海ばかりだから波が高くて、そして、砂が黒い。だから、海のイメージはあまり明るい色ではないのだ。おまけに海水浴の出来る「夏の日」は10日間もない。そんな短い夏の、ちょっと暗い海と比べると、ななっ、なんて明るいのだっ!!
4年前も似たような風景を見たハズなのに、忘れてしまっていたのか・・・?

「うっひょー、いいねー」
「イヤッハーッ!」
タカシくんも、先輩も、もうノリノリだ!!!
「フォーーーーリーーーンン、アイフォーーーーーーーリーーーーーーン」
タカシくんはお気に入りの「THE OFFSPRING」の曲を鼻歌で、それに合わせるようにステアリングを。

「なに、ここなんて島?」
「大島です」
「ふーん、おおしまか。で、なんてとこ行くん?」
「逗子ヶ浜ってとこです。高校の頃よくキャンプとかしてた所なんすけど。」

海沿いの道をゆっくりと走り、幾つかのビーチを通り越していく。途中、熊みたいなやつがガススタンドへ立ち寄る。その間、防波堤の上に立ち、目の前に広がる海を眺めた。照りつける太陽と白い砂浜、透き通った海、まぶしい太陽。今年の夏は、ギラギラできそうだ。

ガスも入れ終わり目的の場所へ。20分くらい走っただろうか、海の家と、駐車場に並ぶ車が待ち受けている、目的の白い砂浜に着いた。少し奥まで走り、ビーチの外れの方にある海の家の駐車場へ入れる。
ドアを開け、真夏の太陽の下へ。暑い。荷物を下ろす間もなく全身の毛穴から汗が吹き出す。もう濡れ濡れだ。ああっ、恥ずかしいっ!!

「そこのガードレールの横から降りたところじゃけー」
重たい荷物を肩に掛け、海の家の横から、ゆっくりと下りてゆく。先に着いた2台がテーブルを設置してビールを開けて楽しんでいた。よし、こっちも荷物を下ろして一服だ。

お気に入りに火を点けて、周りを見渡す。うーん、白い砂浜。透きとおった海。まぶしい陽射し。すり抜ける風。そして、冷えたビール。ああっ、なんて、なんて最高の時間なんだろう!!こんなにも気持ちのいい時間を過ごすことが出来るなんて。30時間前は、あの鬱陶しい都会のスコールに打たれ続けていたのに。

ああっ、水に浸かりたいっ!パンツはもう濡れ濡れだ!もちろん、汗でだ。もうジーンズでは暑すぎる。
「ちょっと水に浸かってくるわー」
そそくさと海パンに履き替える。
「うわー、先輩、セクシー」
「なんかええ体しとるねー」
ふん、歳をとったとはいえ、まだまだ現役さっ、と思いつつ、海へとまっしぐら。

「うっひょーっ、気持ちいいーーーー」
汗まみれの体も、すっかりリフレッシュだ。たっぷりと水に浸かり、軽く泳ぐ。汚い汗を瀬戸内海へ放出し、すっきりしたところで浜へ戻る。次はテント設営だ。先輩を含み田舎モンの集まりなのでアウトドア関係はお手のものだ。テントの設営なんてケツかきながらでもできる。あっとゆーまに、出来上がりだ。

で、落ち着いたところでビールだ。サクッと2缶流し込む。
ああっ、これだっ!この開放感!全身の毛穴から吹き出す汗。それを補うようにまたビールを流し込む。アルコールは体中を周り、そして汗になり吹き出す。そしてまたビールを。イカンイカン、飛ばしすぎだ。夏は始まったばかりだぜ!

さあ、テントの次は夕食の準備だ。と言ってもまだ夕日には早い。ゆっくりと炭を赤くしていくだけだ。炭と一緒にタバコに火を付け、しばし一服。
「おっしゃっ! もういっちょ泳いでくるかっ!」
「うっほーーーっ!」
「おらーーーっっ!!」
「ファーーーックッ!」
タカシくんと、熊みたいな「マツ」、たのきんトリオのよっちゃんみたいな「マッキー」、そして「先輩」。みんなぶっ壊れて水と戯れる。

「おーっし、あのウキまで行きますよ、ふぁんきーさん、水泳部、水泳部!」
「あー、オレパス。いってらっしゃーいい」
「なんだー、チキンだなー」
沖のウキまでなんて、元水泳部のタカシくんなら軽いだろうが、先輩にとっては往復すると危険が危ない。最近運動不足だし。腹減ってきたし。

「おっ! そうだそうだ。」
先輩は思い出して浜に戻った。
「ふふふ・・・これは使える。」
「どーすんのー?」
「ん、浮き輪」
「ははは、いいかもねー」

マツの彼女の「ミキオ」が、ビーチチェアーでくつろぎながら先輩の行動を笑う。彼女は泳がない。誕生7ヶ月前の二世と一緒にくつろぐだけ。

「おっ、これはいいぞっ!」
念願の浮きグッズが手に入った。名付けて「発泡スチロール一号fromスーパーの裏」だ。
「おー、楽チン楽チン」
「何持ってきたんっすか? あはは、それかー!」
なかなかいい感じだ。

「あー、疲れた」
しばらくしてマツとマッキーは壊れ疲れて戻っていった。
「よし、あっちの方まで遠征だ」
タカシくんと先輩で、人がたくさんいるビーチの中心の方まで遠征してみる。ファンキー度ではオレも一目置くタカシくんは、ファンキーに加えてアホ、いや、結構なチャレンジャーだった。すぐに標的を見つけた!!
「ねーねー、どっから来たん、えー、そうなん?」

おいおい、ちょっ、ちょっと待て、高校生じゃないか?それは。渋谷にいるぞ。オレはパスだ。
「ふぁんきーさん、こっちこっちー」
パスだっちゅーのに。渋々近寄っていくが、向こうもあまり乗り気じゃないらしい。

「なに?親戚のおばさんと来てるって?ああ、あれじゃねーの?」
浜辺でおばさんが体育座りしてこっちを見ている。
少し粘ったが、タカシくんはやっぱり撃沈だ。別にもてない男じゃないのに、未だに彼女が居ないい。そろそろ歳なんだから焦ろっての。・・・ん?オレもだ。

「ふぁんきーさんチキンだなー、ダメですよー、もっと行かないとー」
「いやっ、あれは高校生だろー、もー、オレはパスだよ。」
「チキンだなー」
「もうそろそろ戻るか、腹減ったし」

あーだこーだ言いながら、みんなの待つテントの前まで泳いで帰る。そろそろ腹が減ってきた。晩飯は何にしよう。

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