Rider's high - 第4章

平和ボケ野郎、略して平和ボケ野郎ふぁんきーは、悲惨な事実を再認識しながら神戸の街を走り抜けた。4年前と同じように、後ろめたさを感じながら。
しかし、そんな気持ちも再び顔を出した真夏の彼女の最高の笑顔の前では、次第に薄れ、平和ボケ野郎ふぁんきーはファンキーなバイク乗りへと変身していた。

「うっひょー!!おるわーっヲ!!」
一般人には判別つかない言葉を叫びながら、山陽自動車道を夕日色の鋼の馬に跨り、風と同化する。そのうち日本語も解らなくなり、標識の字が読めず、また道を間違えてしまった。
「またやってしまった・・・。まあ、いいか。」

相変わらず適当だ。雨が降ろうが、道を間違えようが、まったくお構いなし。計画を立て、ある程度その通りにいかないと不快になる人種には、ずぼらで、不器用で、頼りない人間に映るのだろう。でも、そんな風に見られても「オレの人生悪くねぇ」って思える。失敗?、脱線? 何でもござれ!!スマートに物事を運ぶ奴らが、決して得ることの出来ない時間を楽しめるじゃないかっ!!

なーんて、彼女の前で失敗したときの言い訳みたいな言葉を思い浮かべながら、一般道を楽しむ。さっきまでの線のような景色から、日本むかし話のような田園風景へ。ファンキーな心も、井上陽水の少年時代を口ずさんでいた。
「なーつがすーぎー、かーぜーあーざみー、誰のあこーがーれにー、さーまよぉー」

ローリングしながら歌う汚い格好のバイク乗りを、歩道を歩く地元の女の子が笑う。でもお構いなし。なぜって、もしその女の子がその日の夕食を一家だんらんで過ごすなら、きっと変なバイク乗りの話で楽しく食事ができるから。だからファンキーは楽しい。

以前、葉山の保養所へ行った時も「越中谷アフロヘアーかつら」とデカいグラサンで武装し、白い歯をむき出し、あごを伸ばしながら走り、道路脇で張っていた高速機動隊を爆笑させたことがあった。気分は竹中直人だ。

そんなファンキーなバイク乗りも、やはり人の子、空腹の攻撃には勝てなかった。しばらく食べていないので、腹と背中がくっついている。
「・・・ボクサーって凄いな」
なんて考えながら見慣れたコンビニの看板を探すが、走っても走ってもコンビニが見えない。やっぱり都会とは違う。自分の田舎、北海道は意外や意外、コンビニ激戦区だったため、コンビニは生活の一部であるのが普通のことだったのに。

やっと見つけたコンビニも、いかにも田舎チックで、だだっ広い未舗装の駐車場を併設させていた。周囲を見渡す余裕もなく空腹にやられていたオレは、ヤンキーが立ち読みしている店内へ急いだ。
しかし、習慣とは恐ろしい。気が付くとヤンキーと一緒に立ち読みしていたのだっ!!それもエロ雑誌の前だ!!下半身がローカルなエロ本を期待していたのかもしれない。悲しいが、それが男の性と割り切り、再び正気に戻ったファンキーなバイク乗りは、本来の目的地へと急いだ。

「・・・?、・・・焼きそばご飯・・・??」
初顔合わせのそのメニューは、いきなりオレを挑発してきたっ!!最初の挑発を軽く流し、他を物色する。しかし、なぜか気になる。ふと視線を戻すと、さっきよりも更に挑発してきたっっ!!!

「・・・オーケイベイベー、わかったよ。」
初対面のメニューの挑発に乗ってしまったオレは、せめて飲み物は普通にと、お気に入りのいつものやつ、充実野菜を手に取り、レジへ向かった。

「ふう〜。どこで食ってやろうかな。」
外に出ると弁当を手にしたからか、まだ空腹にもかかわらず落ち着きを取り戻していた。ふと周囲を見渡すと、そこは、ほんの少しだけ、異次元・・・

駐車場の角の方では、ドラム缶の中で何かが燃やされている。

コンビニと隣り合わせで、疲れ果てたドライブインが、今の時代でも昔の雰囲気のままで客を待っている。

脇を流れる川には、現役の橋と、そして、隣でひっそりと佇む、旧道の橋脚。

くたびれたドライブインの看板の下には、街灯に集っていた昆虫の死骸の山。

電線でオレを凝視しているトビ。

駐車場の白線をまったく無視している、ベタベタの車高のヤンキー車。

白いヘルメットが眩しい、自転車通学の中学生。

クワを持ったおじさん・・・。

今日の朝は日本で一番騒々しい都会に居たのに、どうやら迷い込んでしまったらしい。名前も知らない不思議な世界に。

そんな一瞬の風流を感じながらも、腹が減っては戦ができぬ。平常とは違う世界、そう、自分にとっては敵地ともいえるかもしれない、この場所に迷い込んだファンキーなバイク乗りは、戦国武将のことわざ通り、空腹からの脱出をするために、割り箸を割った。


「・・・・・・FUCK!!」
さんざんオレを挑発してきたこいつは、やはり異次元の戦士だった・・・


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