Rider's high - 第3章

「いやっほう〜っ!! 夏だよ夏っっ!! やっぱこれだね〜っっ!!」
名古屋を目前に控え、夏の女神が眩しい笑顔を振りまいてきた。
「オレが風なら、オレの彼女は太陽かな?」
彼女が顔を出すと元気が出る。

さっきまでのクソ雨の中で砂混じりの冷たい水を掛けてくれた4輪どもをブチ抜く。
「オレの先を行くなんて100万年と10日早いぜっ!! ちんたら走ってんじゃねぇよっ!!」
調子づくと主観的になる。まったく、これだから彼女と・・・・・・

そういえば、彼女の居ない夏は久しぶりだ。別れた彼女がオレを縛っていた訳じゃないが、ものすごい自由を感じる。久しぶりに、何処までも行ってやろうと思える。そう、車やバイクに初めて乗って、自分がこのまま何処までも行けると思っていたあの頃のように。

久しぶりに見る風景だ。4年前に九州へ行ってしまった、あの思いつきツーリング以来の風景だ。心の中から、少しずつ蘇ってくる。
「東名を西へ、ひたすら走ーるのさーぁ うぉーお! 広島まーで、もーあと、ななひゃっきろーおー」
浜省の歌を口ずさみながら、道幅いっぱいを使い右に左にロールさせる。車の連中から見りゃ、ただの暴走族だ。でも、お構いなし。こんなに気持ちのいい風を感じられない箱の中の連中とは、今は別世界の人間。

「I'm in the coolest rider's high!!」

熱くなったハートも少しずつ落ち着き、たまにはゆっくり景色でもと思い、走行車線をゆっくり流す。線だったスピードが、三次元的な姿を現し始める。
そんなオレを、追い越し車線の箱の中でガキが物珍しそうに覗く。笑って舌を出すと、ガキも笑いながら手を振る。好奇心なのか、純粋なのか、こんなコミュニケーションは気持ちがいい。


「こらガキー、ついてこいやー、ひゃっほうーっ!」
調子に乗って再びかっ飛ぶ。頭の中と足の長さは未だにガキだ。

さらに走り続け名古屋近くを通ると、以前休憩したパーキング見えてきた。
「養老パーキングだ。止まろうか・・・いや、先へ行こう。」
停まれば想い出に浸れるだろう。しかし、時は流れている。今は、次の想い出を作ろう。

名古屋を軽くやり過ごし、次は大阪、そして、あの神戸へ。4年前の思いつき九州ツーリングの想い出の断片が、浮き出ては少し沈み、また浮き出ては少し沈み、次第にジグソーパズルが組まれるように少しずつ形となってくる。そんなことを繰り返しながら、吹田ジャンクションに差し掛かった。
ルートは二手に分かれるが、今回は大阪市内を走る阪神高速を通ることにした。なんて、自分から決めたのではなく、ただ単に分岐点で道を間違えてしまっただけである。
「ふっ、よくあることさっ」
道を間違えたとしても、目的地にはたどり着ける。

大阪に入ると電光掲示板に雨走行注意の表示が出ている。西の空は黒い。甲子園の丸坊主、いや、最近はほとんど居ないな、そう、奴らも今頃雨に祟られているのだろう。もっとも、グランドの上の火照った体には気持ちのいい雨だと思うが。

雨は小降りになり、幸いパンツまでビショビショにはならずに済んだ。雨後のアスファルトの湿っぽさの中を、神戸中心部の阪神高速を走る。ふと、悲しい気持ちになった。あっちの世界に対する感覚の鈍いオレでも、この雰囲気の中をあの悲劇を思い浮かべながら走れば、誰かが触りに来るのだろう。たぶん、崩れ落ちた高架の上を走っていたのだろう。そんな感じがした。

4年前の九州の帰りも神戸に立ち寄った。立ち寄ったのではなく、たまたま通ることになったのだ。排気ガスで真っ黒になった、真っ白だったハズのTシャツで、赤いXJR400に跨り、軽い気持ちで・・・。

「・・・オレみたいな奴が、こんな気持ちで来るところじゃなかった・・・」

復興は進んでいると、安易な考えをもっていた自分を恥じた。家は崩れ去り、何本もの電柱が道を塞いでいる。何台ものショベルカーが、がれきを集め、次々と現れる大型ダンプへ積み込んでいる。幹線道路は大渋滞だ。

オレみたいな奴を除いては、みんな必死なんだろう。
完全に平和ボケ野郎だ。FACK ME!!


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