Rider's high - 第2章

とうとう金曜日だ。今日はフレックスで14時に上がって、東名を西へひたすら走ろう。
幸運な事に天気もいい。宮崎台駅で降りて、カロリーメイトと充実野菜を手にレジへ向かった。
「・・・・・・・・・ん???」
店員がドアへ走り、扉を閉めた。スコールだ! ななっ、なんという事だっっ!!さっきまで晴れていた関東平野を、ものすごいスコールが襲っている。まるで空から大魔王が降りてきたようだ。

小降りになるのを待って、急いで部屋へ帰る。ついてない。昨夜用意したツーリング用具が寂しく転がっている。
夕方になっても雨は止まない。19時には吉本が新幹線に乗って故郷へ走り出す。オレは何時に出ることができるのだろう・・・

天気予報を見ると、西の方は晴れているみたいだ。しかし、こちらの雨はハンパじゃない。新幹線の中のヨシモトにケータイを入れる。そろそろ名古屋あたりだろう。天気の状況を聞こうと思ったが、やっぱり出ない。あの酔っぱらいが。
仕方ないので、今日は出発を取りやめることにした。ケータイのアラームを3時に設定して、雨音を子守歌にして期待と不安と一緒に夢を。


・・・気が付くと4時を廻っていた。ケータイのボタンを押してアラームを止める、かすかな記憶が蘇ってきた。まあいい。外は依然雨だ。寮の玄関にバイクを置き、荷物を丁寧にくくりつける。4年間御世話になっているキチガイ色のカッパで全身を包んだ。
「いくぜ Drag Star!! 憂鬱な雨を蹴散らそうぜっっ!!!!」

小降りになったとはいえ、顔を丸出しで走ると雨が痛い。もっとも80km/hまでならそれほどでもないが。
東名川崎のゲートをくぐり、針が120km/hを指すまで手首をひねる。
「いやっほう〜!! 雨なんてぶっちぎってやるっ!!」
相変わらず、オレはファンキーだ! いや、ワイルドだ! いや、セクシーかも・・・・?

他にバイクは走っていない。普通の人間は走ろうとも思わないだろうこの状況は、オレにとっては快適な時間だ。トレーラーの水しぶきを蹴散らしながら、雨にビビッている遅い車をパスする。突然、前方の車がハザードをつけた。
「なんだよ、いきなり渋滞かよ!」

ハザードをつけ、渋滞であることを後続車へ知らせる。一体誰が考えたのか、こんなハザードの使い方は教習所では教えない。同じ道を走る者同志の暗黙のルールだ。
減速し、車と一緒にゆっくりと走る。どこまで続くのやらと考えながら走っていると、前方の路肩に何かが見える。事故だ。

現場に差し掛かると路肩の土手に真っ赤な車が突っ込んでいる。ボンネットはお世話になったチリ紙のようだ。

まったく、なんてファンキーな野郎だ。フェラーリテスタロッサをこんなにもウィットのきいたスタイルにしてしまうなんて・・・。

事故現場を過ぎ、再びスピードの上がった車線を、激しさを増す雨を蹴散らしながらひたすら西を目指す。
「西遊記じゃあるまいし、そんなに頑張らなくても、ねえ」
などとチキンな思いが浮かぶくらい酷いスコールだ。いや、スコールならすぐに止むだろうに、この雨はひたすらオレにぶつかってくる。さっきからずっと、最新式の美顔器で顔を洗っているようだ。しかし、その割には汚い。

「・・・・何時だろう?」
時計を見ることさえできず、そしてぶ厚い雲のある薄暗い空間を、自分の100倍以上の重量の塊が120km/hで横を走る道を、ただひたすら進むのは、危険で、無謀で、そして普通の人間にとっては地獄の三丁目に迷い込んだ感覚だろう。そしてこのまま、この道から出ることなく現世からいなくなるのではという、そんな気持ちにさえさせられる。

次第に、少しずつ雨粒が小さくなってきた。遙か前方の空は雲が薄い。
「そろそろだな・・・」
確実に、この雨が、そして、この暗い空間が、終わりを告げるのが近いことが分かる。


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