Rider's high - 第1章

・・あれは、確か・・・・、1999年の夏の事だった・・・

「あの〜、今池袋駅前なんですけど〜、誰も居ないんですぅ〜。皆さんどちらへ行かれたんでしょうか?」
その日は、いつものようにエグザス池袋での水泳部の活動があった。ハズだった・・・・・・
「おかしいな??」
プールへ入った三頭身の脳裏に、微かな疑問が生じた。
「もう既に上がってしまったのか・・・」



仕事が忙しくて行けないと、昼過ぎにメールで水泳部長へ連絡したのだが、溜まっていたストレスが、夕日の頃、爆発した。
「お先に失礼しますっ!」
血走った目でそそくさと地下へ潜ると、都心を離れ、寝床へ急いだ。

「今日も暑いな・・・」
暑さと、湿っぽさと、そして、ディスプレイに釘付けの疲れた眼のせいで、三頭身は苛ついていた。
「泳ぐか」
切り替えは早かった。すぐに着替え、池袋へ急ぐ。ロッカー室に入ると、針は既に20:30だった。
いつも21:00に上がり、風呂へ入り、リフレッシュしたところで賑やかな街の中へ、ビールと共にとけ込むのが、水泳部のおきまりのパターンだ。

しかし今日は違った。池袋駅前の交差点の角で、一人佇み、ジーンズのポケットからP207を取り出した。
「あの〜、今池袋駅前なんですけど〜、誰も居ないんですぅ〜。皆さんどちらへ行かれたんでしょうか?」
ダースベイダーヨシモトのケータイにはつながるが、留守電に変わってしまう。
「あのやろう、どっかで飲んでて、鞄の中のケータイがマナーモードで聞こえないな・・・。」

恐らく、40分は佇んでいただろう。一人肩を落として山手線に乗り込んだ。今日はビールでリフレッシュ出来ない。車窓からの街灯りがヤケに楽しそうに映る。駅の階段ですれ違う人々。その中をすり抜けながら地下へ潜り込み、いつもの帰宅道をゆっくりと。
リフレッシュしに行ったハズなのに、なんだか少し不満で、でも仕方なく部屋でTVを見ながら、虚しさに包まれていた。

ケータイが突然鳴り出した。取ると、ふざけた声が聞こえる。
「あ、あはは、居ました〜? いやっ、今日ケータイ部屋に忘れてて、今留守電聞いたんですけど、すんません、今日二子玉で泳いだんですよ。他の奴ら全然来れなくって、いやっ、ふぁんきーさんも来れないって言ってたから、岑畑さんと二子玉にしようかって。部屋ですか〜? あっ、今行きます」

「はあ〜?」

にやけた顔で部屋に入ってきた男は、スーパードライを2缶持っていた。

「すんませんでした、いやっ、ふぁんきーさん来ないって言ってたから・・・」

・・・そうこう話をして、話題は夏休みの過ごし方へ変わっていった。
「いや〜、オレはホントは今週末、テラマサとバイクでツーリングキャンプする予定だったんだけどよー、あいつ岩国から従兄弟がくるってゆーから無しになってよー」
「へー、そうですかー。オレは今週末から実家帰りますよ。楽しみだなー」
「ほー、バイクでか? なに?新幹線か。チキンだなー」

「どうすっかなー?北海道に転勤したら、もう西の方にはバイクで行けねーなー」
「あっ、じゃあウチ来たらいーじゃないですかー!」
「あー?バイクでかー。休み取ってないぞー」
「そんなんいいじゃないっすかー取ればー」
「う〜ん、月火水くらい取ってかー? そうだな、もう行けないもんなー。わかった、じゃあ行くか!」


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