I'm unemployed - 第6章
「う〜ん。・・・ん???」 目覚めるとベッドの上だった。 「・・・そうか、ホテルに泊まったんだっけ」 体は旅モード。テントで寝ているのが普通の状態から、いきなりホテルのベッドに寝ると、ちょっと調子が狂う。 普通の人間なら、いい休息になるのだろうが、放浪慣れしているオレにとっては、余計な快適さだったようだ。 軽くシャワーを浴びて、目を覚ます。そして、再び、ぷーバイク乗りへと変身する。 チェックアウトし、駐車場へ行くと、夕日色最高号が待っていた。 「さて、いこうか、相棒!」 通勤時間の終わったばかりの、朝の岩国を軽く流す。そして、そのまま海沿いの国道188号へ。 「あばよ、岩国。またいつかな」 海沿いのこの道は、一度だけ走ったことがある。 「そうそう、こんな感じ」 あの時の思い出がよみがえって来る。 「おー、大島か〜」 あの、楽しかった想い出をくれた逗子ケ浜。その屋代島への入り口の橋を眺めながら、そして、通り過ぎた。 もう十分、昔の想い出には浸ることが出来た。アクセルを捻り、その想い出を、風とともに後方へ置き去りにする。 時間は流れている。楽しかった思い出は大切に胸の中にしまい、また、新しい思い出を作ればいい。 「お、柳井市?」 道路標識に書かれた、この文字に、素早く反応した。 「aikoの本名じゃん!」 まあ、それだけだが。しかし、aikoは最高だ。 そのまま光、南陽、徳山、防府を抜け、国道190号で宇部へ。 「やっぱ、山口って、なじみ薄いよな〜」 たぶん、山口県の場所を知らない人って、多いんじゃないだろうか?オレも北海道に住み続けていれば、多分分らなかった。 「お、宇部って、宇部セメントだよな〜」 と、強引に関連付けて、見慣れない風景を楽しむ。そのまま国道2号に合流し、そして、下関へ。 「そうだ、ふぐを食おう!」 そう思い、ふぐの店を物色するが、やっぱり高い。 「ま、まあ、昨日海鮮は喰ったし、腹もまだ減ってないし」 そんな感じで、そそくさと九州へ渡る。 下道で門司へ渡ると、国道3号はプチ渋滞。そそくさと海沿いの道へ。すぐにコンビニを見つけ、高めの壁の脇にバイクを停めた。 「暑いな〜」 日差しは最高に強い。常に汗が噴出し、のどが渇く。清涼飲料水を買い、ガブガブの飲む。時間は昼を過ぎている。ついでに弁当も買い、腹ごしらえして、地図を広げる。 このまま国道3号を進むと、都会地ばかりを走ることになる。そんなつまんない走りは無用だ。東海岸へ出て、国道10号を南下しよう。 混雑している市街地を抜けて、東海岸へ出る。道は産業道路。大型が程よく走っている。その中を程よくすり抜け、国道10号へ合流した。 道は比較的広く、流れも悪くない。 幹線道路なので、見える風景も、まあ、いたって普通だ。適度な街と街を結びながら走っているが、その間のプチ田舎も、それなりの感じ。ただ、関東で見る風景とはやっぱり違う。 行橋を過ぎ、中津に入った頃には、その風景も、結構田舎チックに変わってきた。 そして別府。 「お〜、なつかしい〜」 別府を走るのは初めてだ。ただ、昔、前の会社の、北海道の工場に居た頃、安全衛生大会だったっけか、その出張で来たことがある。そのときが初めての九州。山並みや木々は、北海道とは全然違い、そして、別府の街で見た、フェニックスの街路樹が、とても印象的だった。 「そうそう、この温泉街に来たっけ」 国道10号からほんの少し山側に入ったところに、昔世話になった温泉街がある。この風景を見るまでは、想い出すことができなかったのに、見た途端、あの時の情景が鮮明に蘇ってくる。 そう、人間の記憶の奥底には、数え切れないほどの想い出が詰まっているのに、想い出すキッカケとなる鍵がないと、なかなか想い出せない。だから、人間は、色々なことを想い出せずに、歳を重ねていく。悲しいことかもしれないが、きっと、先へ進むには、必要なことなんだ。 そのまま南下し、プチ渋滞の大分をパスし、さらに南下。川の横を走る山間の道に入る。なんともゆっくりと走れる、なかなかいい道だ。 JRと並走しながら、標高が高くなり、いくつかのトンネルを抜ける。 山と川。夏の九州の田舎道を味わいながら走ると、いつしか陽も沈み、そして標高も下がってきた頃には、少しずつ民家が見えはじめる。 そして、並走している川の幅も広くなった頃、道の駅に到着。 とりあえずトイレに行き、顔を洗ってリフレッシュ。 北川はゆま。そう書かれた道の駅には、地元の名産品の直売所が入っている。ただ、今日は既に閉店。 缶コーヒーを買い、丸いテーブルのある小さな休憩スペースで、一服しながら地図を広げる。 「ほ〜、結構海近いじゃん」 地図を見ないまま山間の道を走っていたので、まだまだ山奥だと思っていたのだが、すぐ先には町があり、それほど標高も高くない。 「う〜ん、今日はここかな〜」 どうやらこの先には、あまり良い野宿ポイントは無いようだ。 「こんにちわ〜」 「え、あ、こんちわ」 「あのナンバー、横浜から来たの〜」 「うん、まあね」 ちょっとオレより年上だろうか、その女性は、ジュースを片手に、丸いテーブルの反対側に座った。 「すごいね〜、高速走って?」 「いや、ほとんど下道。横浜から四国に渡って、で、昨日は山口から」 「へ〜、ホテルとかに泊まるの?」 「いや、キャンプ場とか野宿とか」 「うわ〜、すごいね〜」 まあ、普通の人間にとっちゃ、ちょっと変な行動だろうな。その女性は、バイクに興味があるのか、オレに興味があるのか、単なる暇なのか、しばらく話しをする。 「・・・で、おねーさんは独りで?」 「うん、ちょっと知り合いがここに来てるかな〜と思ってね。でも来てないみたい」 「そーなんだー、じゃあ、どーするの?」 「うん、そうね、もう待ってても来ないと思うから、そろそろ行こうかな。おにーさん、気をつけてね」 「うん、おねーさんもね」 そういって、その女性は、白いインテグラに乗り、道の駅から去っていった。 「さーてと、野宿はどうかな?」 建物の横手には、テントを張るスペースはあるようだ。おまけに、出店を作るからだろうか、建物の前にはアーケードのように、屋根が付けられていて、ベンチも並んでいる。まるで、オレが、ここで寝る為に作られてるような道の駅だ。 さっそく銀マットとタオルを出して、ベンチでくつろぐ。 空には既に、星が疎らに出ていた。 しばらくすると、バイクが1台、入ってきた。 駐車場の、夕日色最高号の近くにバイクを停めて、こっちに歩いてくる。 「こんにちわ、今日はここで?」 「うん、まー、そーしよーかなと」 「あー、オレもここまで走ればなんとかなるかな〜っておもって来て見たんですが、よさそうですね」 「うん、屋根もベンチもあるし。テント張らなくても寝れるわ」 オレよりも5歳は若いな。そいつは、トイレに走っていった。 「ふ〜、どこからですか?」 「オレは横浜から、そっちは?」 「仙台です」 「お〜、遠いところから来たね〜、学生?」 「はい、4年です」 「だよね、社会人じゃ出来ないもんな」 「え、学生ですか?」 「まさか。ぷーたろー」 「あー、そーですか」 「あれって、ドラッグスターですよね」 「うん、400の色してるけど、1100ね」 「1100ですか、デカイな〜」 「そっちは?」 「W650です」 「あー、エンジンあの横置きの」 仙台と横浜のバイク乗り2人は、遠く離れた九州の道の駅で、お互いの事と、つまらない事で盛り上がっていた。 「おっ、1台来た」 駐車場に、もう1台、バイクが入ってきた。今度はレプリカ。さっきと同じように、そのバイクも夕日色最高号の近くにバイクを停めて、こっちに歩いてきた。 「こんちわ〜」 「こんちわ〜」 「今日はここで寝るんですか?」 「うん、そーしよ〜かな〜と思って。どこから?」 「東京です」 「お〜、近いね。オレ横浜」 1人増えて、3人になった、遠くはるばる走ってきたバイク乗り。こりゃ、プチ宴会だな。 「それじゃ、ビールでも飲まない?」 「いいすね〜。でも売ってます?」 「ちょっと戻った道沿いに、自販機とかあったから、大丈夫かな。オレ行ってくるよ」 そう言って夕日色最高号でぶっ飛ぶ。5キロほど走ったところに、自販機があった。500缶を6本買い、再びぶっ飛ぶ。 「あったよ」 「あ、いくらですか?」 「いいよ、おごりで」 既に10時過ぎ。九州の道の駅で、横浜のぷーバイク乗りと、仙台と東京のバイク乗りの3人は、互いのバイクの事、仕事の事で盛り上がる。 東京のバイク乗りはSEらしい。仙台の学生は、今年が学生最後の年。 一番年上のオレが、一番時間に余裕がある。まあ、その後の人生に余裕があるかどうかは・・・。 いろいろとくだらない話に盛り上がり、そして日付が変わる頃、それぞれの寝床へ。 今日は3人、それぞれのベンチで、星を見上げながら。 |