I'm unemployed - 第7章



「うぁ〜ぁ・・・」

太陽は既に昇り始めている。時間は7時。調度いい。
トイレで顔を洗い、缶コーヒーで一服していると、昨日の2人も起きだしてきた。
「おぁーっす」
「おーっす」

2人とも顔を洗い、ジュースで一服。
「天気いいね」
「ええ、良かったすね」

3人集まり、地図を広げてこの先のプランを考える。
「とりあえず、オレは最南端に行く予定なんだけど」
「リベンジですね?」
「まーねー」
「じゃあオレもそっち方面に行きます」
「あ、オレは高千穂方面に行くんで・・・」

昨日の夜、オレの最南端一歩手前ストーリを話していた。あの、九州思いつきツーの時の、佐多岬の有料道路のゲートが、18:00で閉まるのを知らずに、ゲート前に18:15に着いて、そして、有料道路に入ることなく戻ってきた、あの時。

宮城ナンバーはオレと一緒に南下、多摩ナンバーは一人で高千穂方面へ。

道の駅を出て、国道10号を南下し、しばらくすると、延岡へ。
多摩ナンバーは国道218号を方面右折、そして、ぷーバイク乗りと宮城ナンバーは国道10号をそのまま南下し海沿いへ。
互いに左手を上げて、そして、お互いの未来へ。またいつか、会うことがあれば。

「じゃ、とりあえずコンビニ寄ろうか」
信号待ちで宮城ナンバーと話し、延岡のコンビニへ。
オレはいつものお気に入り、充実野菜と、そして、それよりもお気に入りの牛乳、そして、から揚げ弁当とポテトサラダ。
「朝から食べますねー」
「ああ、これから先は長からね」

ちょっと汚い2人。地べたに座りながら、地図を広げ、道を確認する。
「とりあえず、ひたすら10号を下がろうか」
「そうですね、どっかで温泉でも入れればいいですね」
「温泉か〜、いいね〜」

腹ごしらえを終え、再び国道10号を南下する。日向をやり過ごし、ひたすら南下。そして宮崎の街へ。強い日差しとともに、高いフェニックスの街路樹が、真夏のバイク乗り2人を迎えてくれる。
そんな、真夏の雰囲気を味わいながらも、市街地には用は無い。軽くやり過ごし、海岸沿いの国道220号へ。
「おー、いいねー」
海岸沿いの国道には、適度にフェニックスが植えられている、日南海岸を眺めながら走るご機嫌な道だ。空は快晴で、日南海岸の千畳敷に、まぶしい太陽の光が反射する。青い海と青い空。雲は白く、風もまろやか。道はきれいで、適度にコーナーがあって、走りやすい。

海沿いのキモチイイ道を走り終えた頃、ガスを入れるために、小さなスタンドに入る。
「レギュラー満タン、現金で」
日に焼けたおばちゃんがガスを入れてくれる。
トイレを済ませ、レジの前のイスでくつろぐ。
「あら〜、横浜から来たの〜」
「ええ」
「あら〜、うちのお兄ちゃんもね〜、東京で大学行ってるのよ〜」
「へ〜、そうですか」
「もうね〜、夏休みには帰っておいでって言ってるんだけどね〜、なんか東京楽しいって〜」
「ははは、まあ、遊ぶところは沢山あるからね」
「それでね〜、映画作るとか言っちゃって、・・・でね〜」
「はあ。」
「・・・ね〜、ホントにね〜」
「へ〜。」
「あらごめんね〜、なんか話し込んじゃって〜」
「いや、べつにいいですよ」

20分は話したろうか。このおばちゃん、よっぽど息子の事が気になるんだろう。オレから東京の事を聞きまくって、どうやら満足した様だ。
「じゃあ気をつけてね」
「うん、おばちゃんも元気で」

スタンドを出てしばらく走った後、海岸沿いの国道448号へ。海岸沿いの崖っぷちの、プチワインディング。道もきれいで走りやすい。2人とも、そこそこイイペースで楽しむ。
「ぐぁっ!」
フレームが、何ともいえない音を出して路面にぶつかる。まったく、荷物を積んだ状態でペースを上げると、フレームが擦りまくる。擦らないように心がけて走ってはいるのだが、その音を聞くたび、反省する。磨り減ったフレームは帰ってこないから。

反省しながらも、ペースよく楽しみ、都井岬へ。

「おー、馬じゃん」
岬への道の両脇に、馬がいる。そして、道のいたるところに、そいつらのフン。一応管理されているようだが、ほとんど野生馬のようだ。
レストランの前を通り過ぎ、さらに進むと、白い灯台の前の、広い駐車場へ。
「ほ〜、景色いいね〜」
駐車場の両サイドには、青い海が広がっている。なかなかの景色だ。とりあえず記念撮影して、灯台前まで行く。
「なに、150円?」
灯台に入るには、どうやら入場料がいるらしい。タダにすれよ〜と思いつつも、ここまで来て150円ケチるのはアホだ。でも、悔しいので、1円と5円と10円をフルに使って150円を払い、灯台の頂上へ。
入場料をとってるせいか、キレイに管理されている。階段を登りきった先からは、丸くなった、青く霞んだ水平線が見える。
「お〜、いいやん」
まあ、150円払う価値はあった。

景色を堪能した後、灯台前の売店で一服。
「なんでアメリカンドックなんだ?」

軽くそいつを腹にいれ、そして再び、最南端への道へ。
国道448号は再び国道220号へ合流。さっき地図で、この先の道の駅に温泉があるのを確認している。
適度に人気のある道を、またーり走る。そして、道の駅の看板。
「おおっ、まじかよっ!」
スコールだ!さっきまでピーカンで、今も晴れ間が見えるのに、はぐれ雲から物凄いスコールが落ちてきた。
「おおー、急げー!」
ちょうど100m先に道の駅。そのまま強行突破して、なんとか駐車場へ。
しかし、バイク用の駐車場は満車で入れない。駐車場のロータリーを一周して、建物と建物をつないでいる歩道のアーケードのような場所へ割り込んだ。

「ふ〜、濡れたけど、大丈夫だな」
「危なかったすね〜」
「あと1分早く着いてりゃ、ギリで濡れなかったのにな〜」
しかしここは歩道。小降りになるのを待って、建物の出っ張っている屋根の下へ移動させる。

「さ、ゆっくり風呂にでも入るか〜」

道の駅くにの松原おおさき。3階建ての立派な建屋の中には、新しく、広い温泉があった。結構な人で賑わっている。どうやら地元民の交流の場所にもなっている感じだ。売店を通り抜け、風呂へ入る。

「おお、いいね〜」

汚い体を洗い終えて、露天風呂へ。湯で温まり、スコールに当たり、火照った体を冷ます。気持ちがいい。


「やっぱ夏はいいね〜」
露天風呂の脇で真夏のスコールに当たる。真夏だから気持ちのいい雨。これが北海道だったら・・・。
北海道の夏は最高だ。ただ、短すぎる。
だから最高なのかもしれないが、北海道に長く住んでいたオレにとっては、バイクに乗れない季節は苦痛以外の何物でもなかった。一年中、バイクを楽しみたい。
だから、北海道から横浜へ。

風呂から上がり、道の駅の地元名産品の売店へ。
「・・・あくもち??」
もち好きのオレの心をくすぐる、奇妙なもちがあった。
「灰の汁で・・・。ふーん」
今日の夜のオカズに一つ買う。

「さて、そろそろ出ないと最南端に着けないな」
汗と排ガスで汚くなった体も、すっかりキレイになった。
宮城ナンバーと、再び、それぞれの相棒にまたがる。
そして、最南端への道をひた走る。

軽快な海沿いのワインディングロードを気持ちよく飛ばす。十分楽しんだ頃に、道の先は山の中へ。
さらに進むと、そう、待っていた文字「佐多岬」が出てきた。
その標識に従い左折する。

「よーし、順調順調!」
結構なアップダウンの続く道。数年前に九州最南端へ行こうと思って、でも一歩手前で叶わなかった時と同じ、相変わらず解りづらい標識に従い、佐多岬へのリベンジを急ぐ。

「そうそう、こんな感じなんだよ。うん・・・。って、前と同じか・・?」
そう、イヤな記憶が脳裏をかすめる。この感じの道。数年前と同じ感じ。

なかなか佐多岬への有料道路のゲートが見つからない。そして、やっと見えた海。
そして、佐多岬への標識は右を差している。

「くー、またかーっ!」
右折して数キロ走ると、やっと有料道路のゲートへ。


「・・・。閉まってる。」

まただ。数年前と同じ、18時15分。
「・・・うーん、入り口は閉まってるけど、出口は開いてるな・・・」
「・・・入れますね。」
「・・・おー。そうだな。」

ゲートの管理人の座っている建物は、既に誰も居ない。そこに、2人分、500円硬貨を2枚置く。

「よーっしっ!最南端制覇だーっ!!!」

開いている出口のゲートから入り、最南端への熱帯チックな有料道路を走る。
「いやっほー!」
やっとリベンジできた。早く最南端の標識の前で1枚撮りたい。
道は適度にカーブがあり、両サイドは亜熱帯の植物で覆われている。日本本土には、他に類を見ない道だ。

「ん?」
浮かれ気分でぶっとぶオレ様の前に、なにやらゲートのようなものが行く手を阻む。
「・・・第2ゲート・・・?」

そのゲートの中には、若いにーちゃんが座っていた。

「あー、いくら?」
「通行券見せてください」
「いや、誰も居なかったから門で500円払ってきたけど」
「じゃあもう6時過ぎてるんで終わりです」
「いや、入り口から入って500円払ったんだけど」
「でも6時で閉まるんで」
「500円払ったんだけど!」
「でも6時で閉まるんで」

「・・・そうか、南国の人間は冷たいのー。わかったわ、クソッタレ。」
あまりの融通の利かないその対応に、ぶちぎれた。

「おー、ダメだってよ。戻ろうぜ」

転回して、来た道を戻る。すでに頭には血が登りきってる。
「うがーっ!このくそがーっ!ばかやろーっ!!!」
アクセル全開、フルブレーキにフルバンク。宮城ナンバーはすぐにから消えた。

そのまま、あっとゆーまに第1ゲートまで戻り、タバコで一服。煮えくり返った腹は治まらない。

「速いすねー」
1分後、宮城ナンバーが到着。

「くそったれが。さっきの500円、回収だな」





第6章へ    第8章へ