I'm unemployed - 第5章
「・・・ふぁ・・・」 随分と寝た。陽は昇り始め、今日も眩しい。 海水浴場の併設されているこのキャンプ場には、シャワールームもある。寝汗を流し、防波堤で一服。 「いや〜、天気いいね〜」 今回の旅は、今のところ、天気に恵まれている。数分間のスコール以外は雨に当たっていない。この様子だと、今日も快晴だ。 昨日は探検しないまま寝てしまったので、今日は島を一周することにする。 都会では既に出勤時間が終わったこの時間に、ゆっくりと瀬戸内観光なんて、贅沢だ。 海を眺めながら走るには、右回りに限る。キャンプ場を出て、道の駅多々羅方面へ走る。そのまま道の駅を過ぎると、新しい道。 程よく、民家と、穏やかな海と、海の向こうの違う島。所々に、忘れ去られたフェニックス。 きれいな砂浜を見つけては、バイクを停めて、砂浜でのんびり。内海なので、水の透明度は良くないが、やさしく打ち寄せる波の音が、なんとも心を和ませる。 「・・う?」 ・・・寝てしまった。1時間以上寝てしまった。しかし気持ちよすぎる。 再び相棒に跨り、海岸沿いの道を走る。 所々にある集落は、道は狭く、でも、なんとなく味のある道だ。そんな、ゆっくりとした時間の中を、地元のじいちゃん、ばあちゃんが、とぼとぼ歩いている。のどかだ。 しかし、この島は意外と大きい。外周をゆっくり周っていると、全然距離が伸びない。道が狭いのでスピードを出せないのと、山道は意外とくねくねしていて、道のりは長い。 砂浜で昼寝したので、既に夕暮れ。そのまま島一周コースを走るが、細くて険しいワインディングが続く。 「おおっ、ひくぞおい」 子猫が道で遊んでいる。おそらく、ほとんど車は通らないんだろう。近くの小屋にでも巣があって、そこから出てきている感じだ。 小さな集落や、民家の前で、地元のじいさんとばあさんが、路肩のブロックに座って話し込んでいる。もう夜なのに、なんてのどかなんだ。 今の自分の住んでいる横浜の住宅街では、考えられない風景だ。 もしこのまま歳を取り続けて、そのときに都会の片隅に住んでいたのなら、自分は、はたして、どんな日々を送るのだろう・・・。 そんな事を考えながら、街灯の無い細い夜道を走ると、少しずつ民家が増え、そして、盛キャンプ場へ着いた。 「ふ〜、ちんたら走って1日かかっちゃったよ」 瀬戸内の小島をバカにしちゃいけない。丸1日かかっても、まだまだ周りきれてない。こんな小さな島なのに、もし、日本全国を隅々まで周ろうとするなら、どれだけの時間を要するのだろう・・・。 「ううっ・・・」 ビールを頂こうと思いクーラーを開けるが、さすがに氷は解けて、既に水。ビールはぬるい。 仕方ないので、多々羅方面へ走り、缶ビールと氷を買い、再び防波堤の上で、星を眺めながら、明日のプランでも考える。 そして、テントの中で、夢の中へ・・・。 「・・・ふぁ〜あ」 今日も快晴だ。ホントに雨が降る気配はこれっぽっちも無い。 シャワーを浴びて、寝汗を洗い流す。連泊して十分に疲れが取れた。今日はブリバリ走ろう。 全ての荷物を積み終えた頃、管理人のおじさんがやってきた。 「昨日も泊まったねぇ」 「うん、ずーっと走ってたから、金払ってないわ」 「今日は出るの」 「うん、九州の方行こうと思って」 「はぁ〜、九州まで。きーつけての〜」 「どうも。あ、お金」 安い宿泊料を払い、夕日色最高号へ。 「さてと、行きますか」 居心地の良くて連泊した盛キャンプ場。 「また来るぜ!盛りキャンプ場!」 海岸線を多々羅方面へ戻り、そして、道の駅多々羅で軽く一服。 海の手前に腰掛けて、見上げるのは、これから通る大きな橋。日差しは今日も、最高だ。 そんな日差しに急かせれるように、相棒と二人、再び、しまなみ街道のゲートをくぐる。 「おっしゃー、ぶっ飛ぶぜ〜」 と、ぶっ飛んだのもつかの間、高速は生口島南で強制終了で、国道317号へ。 「九州ツーの時来たな〜」 昔の記憶が蘇ってくる。そのまま北上し、生口島北インターから再び高速へ。 因島も九州ツーの時に、既に一周している。降りる必要がないが、大浜PAで一服。 バイク用の駐車スペースには、アメリカンが2台停まっていた。1台は品川ナンバーのHD、もう一台は多摩ナンバーのShadow。 「こんちわ〜」 「こんちわ〜」 「あ、東京ですか」 「ええ、どちらから?」 「横浜です」 「あら〜、関東ばっかり集まったね〜」 「ほんと、他県のナンバー見ないな〜」 こんな、関東から離れた、しまなみ街道の、小さなPAで、東京と横浜のバイク乗りが3台。他にはバイクが居ない。なんか、世の中狭いのか、関東のバイク乗りが変なのか。 「昨日はどっか行きました?」 「手前の大三島でぶらぶら、そちらは?」 「自分は道後温泉でゆっくり。良かったですよ〜」 「あ〜、オレも2日前にそっち方面から来たけど、道後温泉は行ってないな〜」 「上陸は?」 「淡路島から上陸して、そのまま大歩危小歩危経由で、高知と足摺岬行って宇和島経由」 「じゃあ3日くらい?」 「いや、淡路島を朝でて、その日の夜に足摺岬経由で早朝に宇和島で、そのまま大三島まで」 「え〜っ、走りすぎだよ〜」 「まあ、なんか走ってると止まんなくて」 「今日はどこへ?」 「う〜ん、とりあえず尾道降りて、それから考える。そっちは?」 「休みが無いから東京方面に向けて走る予定」 「オレもそーなんだよね」 どうやら二人とも帰路につくようだ。 「じゃあ、休みはもあと2,3日か」 「そう。いつまで?」 「とりあえず期限無し」 「期限無しって、もしかして無職?」 「まあ、5月末に会社辞めて、とりあえず日本一周しようかな、と」 「えー、いいな〜」 20分程話しただろうか。先に一服していた2人とも、そろそろ出る事に。 「じゃ、またどっかで」 「どこかで」 3人で握手を交わし、オレは独り、手を振って見送る。 「さてと、オレはどーすっかな」 残っている缶コーヒーを飲みながら、地図を広げる。このまま走って、とりあえず尾道へ降りる。その後は・・・。 「ま、尾道で考えるか」 再び本線に戻り、向島へ。この島も九州思いつきツーの時に走っている。今回もパスだ。 両サイドに見える風景は、瀬戸内の島々から、本土のゴチャゴチャした街並みに変化する。そして、しまなみ街道終了。 国道2号に合流し、尾道方面へ。すぐに駅前に到着。 「お〜、なつかし〜の〜」 九州思いつきツーの時の記憶が蘇ってくる。とりあえず駅前の広場の歩道に停めて、一服。一応尾道駅を バックに記念撮影。べつに撮影するほどのものではないが、なんとなくだ。 「さてと、とりあえず、ぶらり瀬戸内海沿いの旅だな」 国道2号を西へ。この道は意外と大型が多く、黒煙をかぶりまくりだ。道もそれほど広くない。防波堤はすぐそばで、その向こうには船と停泊所のようなものが延々と続いている。 途中から国道2号は山間の道になる。ここはやはり国道185号へ入り、海沿いを走る。 しばらく走ると、造船で有名な呉へ。道からは造船所と船が見える。適当にわき見をしながら、そして、そのまま走り続けると、広島。 さすがに広島はゴチャゴチャしていて、プチ渋滞にもはまる。ちんたら走っていたので、既に昼飯時をとっくに過ぎている。とりあえずコンビニで軽く腹に入れ、広島の町を流す。 以前来た時に見た原爆ドーム。今回もまた、手前の歩道にバイクを停めて、ほんの少しだけ、心で黙祷を。 でも、この街も以前訪れたときにぶらぶらしている。今回は軽く流そう。 そのまま走り続け、廿日市、大竹、そして、懐かしの岩国へ。 岩国には想い出がある。そんな、昔の思い出に浸るのも、たまにゃ、いいだろう。 駅前ロータリーの、あの歩道に、あの時とは違う、夕日色最高号、いや、あの時も夕日色だったっけ、それほど疲れていないエンジンにしばしの休息を。 そして、缶コーヒーを買い、あの時と同じように、ガードレールの最上段に座り、そして、あの時と同じように、お気に入りに火をつける。 「ふ〜、なつかしいね〜」 こうやって、昔の想い出に浸れるなんて、オレも結構、走り回ってる証拠だな。 「ヨシオとセツコ、元気かな〜」 すぐ近くのマンションには、ヨシオとセツコが住んでいる。そんな、あの時のことを思い出していると、いつしか、白いワゴンRに目を奪われる。 「おお?・・・違うか・・。」 そんな偶然、あるわけないか。 想い出に浸りながら、軽く街中を流す。 「あ〜、この橋通ったな〜」 「お〜、ここら辺も通ったな〜」 「錦帯橋やん」 「このホテルまだやってんだ〜」 「おっ、ここで釣りしたんじゃん」 見えてくる風景に刺激されて、心の中から、あの時の想い出が沸いてくる。そんなちんたら走っていたので太陽は西の山の向こうへ消えてしまった。 「う〜ん。泊まるか。」 駅前に戻ってきて、新しいホテルの前にバイクを停めて、フロントへ向かった。 「すいません、シングル一晩取りたいんですが、バイクって置けます?」 「裏の駐車場に置けますが」 「安全ですかね?」 「えーと・・・」 そう言ってホテルマンはカウンターから出て、そして駐車場へ案内してくれた。 「ここになりますが」 ホテルマンの指差したところは、立体駐車場の1階部分。当然、屋根付で、奥まったところにあるので盗難の心配もなさそうだ。 「じゃ、泊まります」 フロントでキーをもらい、部屋へ。 「ふ〜、まず洗濯だな」 旅立ってから数日経っているが、まだ1回も洗濯をしていなかった。ビニール袋に汚れた洗濯物を入れ、コインランドリーへぶち込んだ。 そして部屋へ戻り、ディーゼルの黒煙で汚れた顔と、汗まみれの体を洗う。 シャワーを浴び終わり、一服した頃には洗濯物が終了していた。乾燥機へ入れ、再び部屋へ。 「さてと、メシでも喰うか」 ホテルから出て、あの時の様に、夜の有楽街を歩く。 「なに食おうかな〜」 駅に近い方は、適度に食いものやがある。その中に、知っている「づぼら」の文字だ。決断は早かった。そそくさとのれんをくぐり、カウンターへ。 「とりあえずビール」 この店は、昔のままだ。それほど鮮明に記憶に残ってはいないが、感覚的に同じだ。 「く〜、ビールがうめえ!」 腹に沁みる。缶ビールとは違う、生の醍醐味。 海鮮と、焼き物をたのみ、独りでやる。 残念ながら、吉本の「水泳部の後輩」の顔は憶えていない。もし憶えていたら、いい酒のつまみになったのに。 程よく飲み食いし、再び夜の有楽街へ。駅とは反対方面へ歩くと、飲み屋が増えてくる。 「ないな〜」 事前に吉本に聞いていたのだが、その飲み屋が見つからない。ブラブラと探しながら、一度通った道に再び出ると、さっそく呼び込みのオヤジが声を掛けてくる。 「おに〜ちゃん、どこいくん?」 「いや〜、店探してるんだけど、無いんだよね。ここ知ってる?」 「いや、わからんねぇ」 結局、その飲み屋は見つからず、歩きつかれたのでホテルへ戻る。 コインをたっぷりいれて回しておいた乾燥機には、完全に乾いた、きれいになったオレの洗濯物がしおれていた。 部屋で、テレビをつけると、ローカル番組が流れている。 ここは岩国。山口県岩国市。 ホテルの窓を開けると、あの時と同じように、やさしい風が体を包む。そして独り、缶ビールを飲みながら、そしていつしか、夢の中へ・・・。 |