I'm unemployed - 第4章



「・・・」

「・・・うるせえ・・・」

1時間程度寝ただろうか。駐車場にはヤンキーの新興勢力が加わって、まだ騒いでいる。こっちも頑張って寝ようとするが、どうも寝付けない。
「仕方ねーな、走るか」

寝れないときは走るに限る。そそくさとテントを片付け、咥えタバコで道の駅をあとにする。道の駅のある町は小さく、すぐに真夜中の山道と、岩場の海岸通りをひた走る。自分の他には、ほとんど走る存在のない道。適当に走ってりゃ、イイ駐車場でもあるだろと思っていたのだが、ない。全然ない。
「おいおい、ないぞ、心地よく寝れるところが」
走っても走っても、適当な場所は見当たらない。このまま宇和島まで行ってしまいそうだ。
しかしガスが無い。宇和島まで走れるのか?

そんな不安に包まれながら、なんとか宇和島に着いた。
「さーてと、宇和島ならスタンド開いてるべ」
まだ早朝の前の宇和島を、国道、駅前と奔走する。が、無い。スタンドが全然開いてない。
「・・・まじで?」
もうこの先、宇和島より大きな街まではとてもガスが持たない。
「ちくしょー、スタンドが開くまで足止めか」
こうなったら、仮眠の出来るところを探すしかない。ここは街中。それほど心地イイ場所はない。まあ、幸いここは港町。港へ行けば街中よりは心地いいところがある。
「お、このベンチ、いいやん」
港の近くの芝生のそばに、ナイスなベンチを発見した。既に空は明るくなり始めている。もうここで仮眠しよう。
ベンチに横になると、すぐに眠りについた。



「・・・うあ〜あ・・・」

仮眠と決めて寝たので、1時間で程よく目が覚めた。しかし、まだ眠い。結局二度寝してしまい、起きると8時前。港に出入りしているトラックの運ちゃんが、道の反対側で、日焼けした黒い顔から、白いはを覗かせながら、こっちを見て叫んでいる。
「よく寝たの〜」

「ん。」
眠い顔で、手を上げて答える。
結局、満足に寝ることなく朝を迎えてしまった。まあ、バイクで一人旅をすると、こんなもんだ。っつーか、やっぱ走りすぎか。
近くのスタンドを歩いて見に行くが、どうやらまだ開いてないらしい。近くの自販機で缶コーヒーを買い、お気に入りで一服。
しかし、宇和島って名前は全国区でも聞く名前なのに、24時間のスタンドが無いなんて、やっぱ、関東慣れすると、田舎は怖い。

寝ぼけていた頭も少しずつ起きてきた。スタンドも晴れて開店。柔軟体操をして、ベンチの横で待機している相棒とスタンドへ。
トイレで顔を洗い、きれいになったところで、急に腹が減ってきた。
スタンドを出てコンビニへ直行する。こんな朝は、弁当と牛乳が最高に美味い。近くの神社のある公園のベンチで、ホームレスっぽい人々に混じって、ぷーバイク乗りも朝食。

今日はどこへ行こうか。メシを喰いながら地図を広げる。
「行っちゃう?」

そう、地図を見ていると、あの、以前制覇できなかった道が見える。そう、九州行っちゃったツーリングの時に制覇できなかった、しまなみ街道だ。
「うーん、海岸線も捨て難いが、やっぱ、しまなみでしょ」
しまなみ街道制覇の魅力に駆られ、海岸線をやめて、56号を北上する。
「いいね〜、四国は〜」
程よい田舎道の続く56号は、なんとも快適だ。四国の景色ってのは、本州とも、北海道とも違う、やはり独特の風景。基本的に山ばかりだが、その山と山の間の谷をつなぐように、人間の文化がある。そして、谷を走ることは、常に川と並走することとなる。だから、走りながら川と山を見続けることになる。それが何ともいい。

そんな風景を眺めながら走るが、大型が増えてきて、次第にペースは落ちてきた。日差しも強く、ちんたら大型の後ろを走っていては、ストレスに押しつぶされそうだ。
「よっしゃー、ぶっ飛ぶか〜」

タイミングよく松山自動車道のインター。すぐに乗り、松山をパス。そのまま対面通行の高速をぶっ飛んで、一気に今治手前まで。
一旦高速を降りてクールダウン。そしてすぐに今治から、しまなみ街道へ。

「いやっほ〜、やってきたぜ〜、しまなみ街道!」

数年前に九州思いつきツーリングへ行ったときは、橋が全線開通していなかったんで、尾道側から入って、尾道へ引き返していた。今回は四国側から入って、本州まで抜けられる。
来島海峡大橋からの眺めはナイスだ。橋の両サイドには、瀬戸内の島々。明石海峡大橋の雄大さとは違い、瀬戸内の島々が、すぐそばで感じられる、なんとも言えない眺めだ。
片側二車線の橋は、出口付近で一車線になり、そして、大島南インターで強制的に一般道へ。高速は島の北側までは開通していないので国道317号をちんたら走る。まあ、この方がオレらしい。
この島は比較的都市化の進んでいる印象がある。今治から近いからだろうか。

「やっぱ、島は一周しなきゃね〜」

インターを降りて、道の駅の看板どおりに走り、すぐに到着。地図を見る。
「うん、一周できそうね」

休憩せずに一周コースへ出発。すぐにキレイな砂浜が見える。
「いいね〜、瀬戸内は。のどかでいいね〜」
これだよ、これ。波が静かで、砂浜が白くて、なんか、優しい海。夏は、こんなところで、肉焼いてビール飲んで、みんなでぶっ壊れたい。
そのまま海岸沿いを走ると、民家も疎らで、山が迫ってくる。この島は山が多く、海岸沿いの道も、岩場やテトラポットが多い。でも海の向こう側には別の島が見える。これがなんともいい。

瀬戸内の島の、のどかな雰囲気で走り、程よく島を一周し、そして、さっきの道の駅。これで大島制覇。さっき降りたインター方面へ戻り、国道317号を、島の北側のインターへ向けて走る。この国道が、この島のメインストリート。民家と店が適度にある。そして、程よく走ると大島北インターへ。

ゲートをくぐり、すぐにトンネル、そして、次の島への橋。この橋は短く、あっとゆーまに隣の島へ。もちろん、島を一周するためにインターを降りる。
「ここが伯方の塩の伯方島か〜」

そう、ハカタの塩は、博多じゃなくて、伯方。さっそく島の外周をちんたら流す。塩が有名なら、塩の山でも見られるのかと思っていたのだが、そんなもんは見当たらない。まあ、塩問屋みたいなお屋敷はあるが、走りながらではじっくり見れない。
「う〜ん、塩だけじゃな〜」
腹が減ってきたが、塩だけ喰ってもしょうがない。そのまま海岸沿いを走ると、すぐに一周してしまった。伯方島は小さかった。
さっき降りたインターから、次の島へ。
高速に乗り、すぐに次の島への橋。この橋は非常に短く、両サイドから見える海は、まるで川のような幅しかない。

「おーっし、着いた〜」

次の島は大三島。「だいさんじま」だと思っていたのだが、「おおみしま」らしい。インターを降りると、すぐに道の駅多々羅。さっそく一服。
「なんじゃこりゃ?」
バイクを止めた駐車場のすぐそばに、教会の鐘のようなものが建っている。まあ、カップルが鳴らすんだろう。独りのぷーバイク乗りには関係ない。道の駅は海に面していて、そこからは釣りが出来るようだ。数人のオッサンが竿を出している。そこから見る風景には、その次の島と、そこへ渡る橋が見える。そして、その間を、ポンポン船が、ゆっくりと進んでいく。
「・・・いいね〜」
昔、寅さんの映画でみた感じの、あの、瀬戸内の、なんとも言えないのどかさ。北海道にも、関東にも、オレが今まで住んでいたところには絶対にない、この感じ。なんとも言えない「海の身近さ」を感じる。

道の駅にはサイクリングセンターや、インフォメーションセンターがある。そこで、この島の地図をゲット。
「お、キャンプ場あんじゃん」
キャンプ場もあり、ビーチもあり、この島は結構充実している。

「すいません、キャンプしたいんすけど」
インフォメーションのオネイサンに聞いてみる。

「えー、どちらでしょうか?」
「どっちがいいですか?」
「多々羅キャンプ場はすぐ近くで、今時期は家族連れが多いですね。盛キャンプ場は小さくて、たぶん空いてると思いますよ」
「へ〜、とりあえず見るだけって出来ますか?」
「ええ、大丈夫ですよ。予約はここでしてもらうのですが、盛キャンプ場は管理のおじさんがいるので、そちらに言ってもらえばそのまま使用できます」
「わかりました〜」

キャンプ場の地図をもらい、トイレを済ませ、夕日色最高号へ。
「う〜ん、ファミリーはうるせーし、盛キャンプ場だな、うん」

道の駅から出て、ほんの少し走ったところに、多々羅キャンプ場らしきものが見えた。というか、海水浴場みたいな感じの場所。まあ、最初から盛キャンプ場が目当てなんでそのまま素通りだ。スーパーやコンビニのある、ちょっと建物の多めの道から、盛キャンプ場方面の、海岸沿いの細い道へ入る。
見える景色は、所々に建つ島の家々と、穏やかな海と、対岸の島々と、ポンポン船。特別キレイな風景ではないが、なんとも味がある。
「おお、ここか?」
しばらく走ったところに、キャンプ場らしき炊事場とトイレと駐車場を発見。入り口にバイクを停めると、管理人らしきおじさんが歩いてきた。
「連絡もらってるけど、どーします?」
「えーと、バイクは入れますか?」
「あー、こっちのどこでも停めていいよ」
おじさんが指差した先は、天然の芝と、木が疎らに生えている、それほど大きくない、でも、居心地のよさそうなサイトがある。
「へ〜、バイク入っていいのか〜。じゃ、泊まります」

さっそくバイクを天然芝のこじんまりしたサイトに入れる。強い日差しを考えて、当然、樹の下へ。テントを設営すると、すっかり汗だくになってしまった。
「さて、買い物ついでにブラブラしてくっか」

既に陽が傾き始めている。まず、さっきのスーパーで肉とビールと牛乳とモヤシ。風呂は・・・。まず、腹ごしらえだ。
キャンプ場戻り、すぐさまメシを炊く。いつも思うが、キャンプ場でコッペルでメシを炊くと、家で炊くよりも早い。量が少ないからか、火力が強いからか、とにかく早い。
まあ、バーナーが一つしかないので、メシ炊きに時間が掛かると、肉が焼けない。だから深くは考えない。
メシが炊きあがったので、ビールを飲みながら、今度は肉とモヤシを焼く。

「ふ〜。美味いね〜」
単純に焼いてるだけなのに、コンビニ弁当とは比較にならないくらい美味い。だからキャンプは止められない。

ゆっくりと腹ごしらえしながら、周りを見渡す。このサイトの前は海岸通。そして、その向こうには海水浴場。もう、心は連泊モードだ。
「昨日、走りっぱなしだったから、連泊でいいしょ」
そう、時間はたっぷりある。こんなときじゃないと、ゆっくり連泊を楽しめない。

全部喰い終わった頃には、海の向こうに夕日が沈もうとしていた。
ビールを持って、防波堤で、お気に入りのKENT ONEを味わいながら、何も考えず、沈む夕日を眺める。
「・・・きれいだな〜、夕日は」

瀬戸内の、やさしい波と、やさしい風が、そんな気持ちを更に盛り上げてくれる。

陽は沈み、ほんのりと星空。
ただ、防波堤の上で眺めるだけの時間。
やがて走り続けた疲れが出て、早めにテントで夢の世界へ・・・。


第3章へ    第5章へ