I'm unemployed - 第3章
「・・・う〜ん・・・」 目覚めると、既に日は昇り、テントの中の気温が上がってきていた。暑い。半分寝ぼけたまま、水場に出向き、顔を洗う。 そんなオレに、地元のおばちゃんが話しかけてくる。 「あのテントの人?」 「ええ、そうです」 「お金もらったかしら?」 「いや、まだ払ってないわ。誰もいなかったから」 「1日200円。いい?」 「ええ、安いね〜」 ジーンズのポケットから小銭を漁る。 「今日はどうするの?」 「う〜ん、まだ決めてない。連泊するかも」 「じゃ、決まったら後でおしえてね」 「うん」 さて、とりあえずコーヒーでも。と、思い、湯を沸かそうとしたが、キャンプ場の向こうに並んでいる民家が視界に入る。 「ま、自販機でいいか」 キャンプ場に直結の、普通の細い道を歩いてゆくと、すぐに自販機があった。缶コーヒーを買い、飲みながら戻る。 「おっ、挨拶しておくか」 昨日発見した明神様に、改めてご挨拶。 その明神様の裏手からは、防波堤が伸びている。既に数人、竿を出していた。 「のどかだね〜」 島の暮らしは、都会の暮らしとは違う、ゆっくりとした時間の流れに包まれている。防波堤から海を除くが、魚影なんて見えやしない。 しばらく釣りを眺めていても、誰一人釣れない。でも、いいんだよ、きっと。この雰囲気を楽しめれば。 「さて、今日は連泊してゆっくりするか」 そんな、ゆっくりとした時間の流れにそそのかされて、簡単に連泊を決めてしまった。休みの日数が決まっている「普通の連休」とは違って、滞在日数さえもその日に変更することができる。なんて贅沢なんだ。 そして、キャンプ場の前には瀬戸内。季節は夏。最高だ。 「よっしゃ〜、泳ぐべぇ!」 波消しブロックで人工的に作られた小さな砂浜は、キレイではないが、軽く泳ぐには十分だ。 「ふ〜、日焼けでもするか〜」 軽く泳いだ後は、防波堤の上に寝転んで、ビール片手に日焼けをする。まだ真上には来ていない太陽でも、ジリジリと肌を焼く。そんな火照った体に、海からの清清しい風が、やわらかく熱を奪ってゆく。 「腹減った〜。メシ作るか〜」 海パンを捲り上げると、露出部分より白い肌が見える。今年最初の日焼けとしては、もう十分だ。テントに戻り、焦げて真っ黒になったコッペルでメシを焚き、昨日買っておいたウィンナーを焼き、残り1缶のビールで乾杯。 「贅沢だ〜」 喰い終えて一服していると、例のおばちゃんがやってきた。 「今日も泊まる?」 「うん、泊まるわ。はい、お金」 「明日は?」 「う〜ん、たぶん泊まらないわ」 「なら出る時間は何時でもえーからね」 「ありがと〜」 なんとも、まあ、のんびりだ。再び防波堤の上で日光浴をした後、夕食の食材を買いに相棒とスーパーへ。 そしてまた、昨日と同じように、星空と、かすかな波の音を子守唄に・・・。 「・・・うぁ〜ぁ」 今日も快晴だ。こんなに天気がいいのは、普段の行いがイイ証拠だ。 「さてと、リフレッシュしますか」 水場の蛇口に、持参の水ホースをくくりつける。これさえあれば、シャワーが無くても、頭も体もきれいさっぱり。 「うひょっ、冷てぇ!」 こぎれいになった体で、明神様にご挨拶。 「お世話になりました。ほな、また今度」 連泊して、だらけてしまったぷーバイク乗りは、今日は本来の姿に戻る。慣れた手つきでテントをたたみ、相棒に荷物を積み終えた。 「さてと、東海岸でも行きますか」 西海岸は既に走ってしまったので、このまま東海岸へ向かうこととする。県道31号を少し北上し、右折。狭い一般道をチンタラ走ると国道28号へ合流だ。この道は西海岸とは違い、結構な幹線道路だ。大型も程よく走っている。道路わきにはフェニックスの街路樹。これがなんとも、南国を演出してくれている。関東の海岸沿いの道にも、もっと植えてくれりゃいいのに。湘南海岸の国道134号なんて、フェニックス通りにしちまえば、もっとナイスな海岸通になるのに・・・。 「へ〜、一応ちゃんとした街なんだ〜」 しばらく走ると、洲本市に入る。淡路島のイメージは、なんだか昔のままの雰囲気のある田舎の島って感じだったんだが、ちゃんとした街もあり、ちょっとびっくりだ。 「さてと、やっぱ、海沿いを走るべきだね」 洲本市街地からは、国道28号をそれて、海沿いの道を走る。 すぐに崖っぷちの道になり、また海沿い、そして、いったん山を登り、プチ峠を走る。 「ん?」 なにやら怪しげな看板が出ている。 「・・・ナゾのパラダイス???」 ・・・ナゾだ。こんな市街地から離れた山奥の峠に、古いゲートに「ナゾのパラダイス」と書かれている。おまけに変な音楽も流れている。 「・・・こ、怖いな・・・」 さすがのオレも、この手のパラダイスは苦手だ。一旦入ると、二度と出られなくなるか、洗脳されて白装束の集団に入ってしまう可能性もある。まだまだ結婚もしてないのに、そんな人生になってたまるか。 ナゾのゲートを無視して、そのままプチ峠を進む。 しかし、なんだったんだろう・・・。 しばらく走ると、再び海沿いの道へ。そして、大鳴門橋が見えてきた。そのまま先へ行くと道の駅。 淡路島と四国を結ぶ道は、高速道路で、その橋は、断崖の上から出ている大鳴門橋。その付け根の横の道の駅うずしおからは、鳴門のうずしおが見える。 「へ〜、これがうずしおか〜」 テレビでは何度も見ているうずしおが、眼下に数個、速い潮流の境に、出来ては消え、また出来ては消えている。なかなかの迫力だ。 「さてと、行きますか」 観光はそこそこ。そそくさと出て、淡路南ICから徳島方面へ。 「いやっほーっ!」 橋から見る景色は清清しい。迫力は明石海峡大橋には敵わないが、それでもイイ眺めだ。 「四国に入りました〜」 鳴門海峡を堪能し、そのまま鳴門ICから国道11号を徳島へ。開けた大きな空へ伸びるフェニックスの街路樹が、夏を更に強く感じさせてくれる。そのまま広い道を、徳島駅の標識に従って進む。 「おー、広い川だね〜」 吉野川を渡ると、すっかり中心街っぽくなる。右折し、アンダーパスを越えると、到着。 「おー、徳島駅だー」 と、一応感動してみるが、ただの駅。そのまま走り、適当な交差点で一休み。 「ふ〜、暑いね〜」 日差しは強く、気温も高い。自販機でファンタグレープを買い、一気に飲むが、全然足りない。 「もういっちょー飲むか〜」 2本目はコーラ。なぜか炭酸が美味い。 「ふ〜、さて、どっちへ行こうか」 歩道橋の影に入りながら、地図を広げる。そんな汗だくのぷーバイク乗りを、地元のOLが、見て見ぬ振りをして通り過ぎる。やっぱ、日本でのバイク文化はまだまだなのか。と、悔しがるが、たぶん、キレイな脚に見とれてて顔がエロかったんだろう。でも、仕方ない。所詮、男はそんなもんだ。 「う〜ん、このまま西に行ってみようか」 キレイな脚に視線を奪われつつも、これからのプランを考える。地図では、徳島から西へ、国道192号が続いている。そして、吉野川を挟んで北側にも、同じような道が走っている。 「ま、適当に行ってみますか」 市街地で停まってても、ただ暑いだけ。とりあえず国道192号を西へ走り出すと、すぐに田舎チックな風景が広がってきた。走った事の無い、自分にとって新しい世界。何ともいえない心の高ぶりが、たまらなくキモチイイ。 途中、吉野川の北側に並走している道にスイッチすると、さらに田舎チックで、地元民の文化を感じることが出来る。ただ、時折遮る大型に、少々苛つくことが多くなり、再び国道192号へ。 「うん、やっぱこっちのほうがペースはイイわな」 さっきまで遠くに見えていた左右の山並みは、少しずつ、その間隔を狭め、いつしか間近に迫ってきていた。ふと気付くと、前方にヒッチハイカーが手を上げている。残念ながら過積載のバイク。乗せることは出来ないし、ヤツもそれはわかっている。だから、旅人同士の、一瞬の挨拶を、笑顔で。 「Good luck!」 池田町からは、国道32号へ針路を変更。なぜって、そう、「大歩危小歩危」の看板が見えたから。聞いたことはある。「オオボケコボケ」って、実際、なんじゃそりゃって感じ。なんで、この際、実物を見に行くことにした。 程よく走ると、コボケが、そして更に走るとオオボケが現れた。何のことは無い、道の左手の断崖の下の川のことだ。 「ふ〜ん、なるほどね〜」 それなりの感動で、程よく終了。そのまま走り続け、峠を下ると南国。南国は南国でも南国市。 「うー、道が狭いね〜」 古い建物と、古い道は、そして、路面電車がすぐそばを走っているこの感じは、初めてだ。今までの、どんな土地にもない雰囲気。 ただ、すがすがしい、爽快な感じのする「南国」とは、程遠い町並み。そのまま走り、国道56号と合流、そして高知へ。 「へ〜、高知って、こんなんなんだ〜」 道は広くなり、路面電車と、中央分離帯にはフェニックス。なるほど、南国の雰囲気がムンムンしてくる。 でも、今さらゴチャゴチャした市街地を見物する気にはなれない。そのまま中心部を通り過ぎ、コンビニで一服することに。 狭い駐車場のコンビニに入った、ちょっと汚いぷーバイク乗りは、おにぎりを2個と、そして、いつものやつ、お気に入りの充実野菜を手にレジへ向かった。 「すいません、ここら辺の名物って、なんかある?」 「いや、別に・・・」 「魚とか、肉とか?」 「いや、特に・・・」 「・・・そ。」 レジのおねーちゃんはカワイイんだが、対応がそっけない。 「なんだか愛想のない店員だな〜。高知って、そんなんかい」 店先で軽く食事を済ませ、そそくさとバイクにまたがる。 「さてと、先に進むか」 エネルギーを補給したせいか、どんどん走りたくなった。そのまま国道56号を南下し、土佐、須崎を走る。 「お〜、なんか、ほのぼのとした街だね〜」 夕日色に染まったの町並みは、なんとなく、温かい印象を与えてくれる。そう、まだ小学生くらいの時の、夕暮れ時、色々な家の、色々な晩飯の匂いを嗅ぎながら帰った、あの頃のような・・・。 そんな町並みを抜け、中土佐を過ぎた当たりから、路面が湿ってきた。空には夕立の雲。幸い、まだ、雨には当たっていない。 が。 「きたよ・・・」 夕立だ。それもプチ峠で。こりゃカッパを着ないとビショビショに濡れまくる。バイクを止められそうなところ探しながら走ると、対向車線側にパス停と、屋根付の待合所を発見。そこで雨宿りをする。 「ふ〜。危なかったな〜」 幸い、軽く濡れただけで済んだ。これなら問題ない。 雨は5分で小降りになり、さらに10分待ち続けると、完全に止んだ。 「さて、行きますか」 路面はまだ濡れているが、気温が高いので乾きも早い。蒸発する水でムシムシするプチ峠を、足が濡れないように、タンクを挟むように足を上げて走る。そのうち路面は乾き、濡れた服を乾かしながら先へ進む。 既に日は沈み、すっかり夜。海岸沿いに出てからは、遥か向こうに見える、この道の延長上の街灯の明かりが、自分の進む方向を教えてくれる。 「足摺岬でしょ〜」 そう、初めて九州に行ってしまったあのときのように、目標はどんどん先へ移動してゆく。既に夜。昨日の今頃は、淡路島でのんびりしていたのに、今日は連泊の遅れを取り戻すかのように走りまくる。 また入ってしまった。スイッチが。 中村で進路を国道321号へ。しばらく四万十川沿いを走る。 「くっそー、四万十、全然見えね〜」 夜の川なんて、なんにも見えない。対岸の道の明かりくらい。走り続けると、またプチ峠。そして、再び海沿いの道。 「車、全然いないな〜」 対向車も先行車も、全然会わない。こんなん時は、自分独りが、現実世界とは違う、パラレルワールドに迷い込んだのではと錯覚する。そして、久々に見る、自分以外の車と遭遇した瞬間、自分が現実世界に存在していることを確認する。 「オーベイベー、君を待ってたよ〜」 すり抜けの時には邪魔な存在の車どもも、こんな時は心の支えになる。他人の存在が嬉しいなんて、やっぱ人間ってのは、寂しがり屋だ。 そのまま走り続けると、交差点に足摺岬の文字。その標識に従い曲がる。が、しばらく走ると、なんとも言えない、うっそうとした、熱帯雨林の中の狭い道になってしまった。 「おいおい、まじでか。ちょっと怖くねぇ?、ここ」 ジャングルだ。狭い道のジャングルに迷い込んでしまった。まるでベトナムを思い出すような、そんなうっそうとした熱帯雨林だ。まあ、ベトナムなんて行った事は無いが。 地図で確認したいが、止まると猛獣がジャングルから出てきて喰われそうなんで、止まるに止まれない。それに、持ってるのは所詮全日本地図。足摺岬の詳しい道なんて出てやしない。 「く〜、まじか」 恐る恐る、慎重に走る。 「お、分岐?」 「あれ、今の海?」 「お〜、海じゃん。って、今どっち向かってるんだ?」 「やったー、建物だ〜!」 「ん・・・?ここさっき通った・・・」 人間の気配のある建物の脇で、地図を確認する。 「う〜ん、なんか、周ってきただけみたいね・・・」 どうやら、半島の中央部をぶち抜いて、で、西海岸から戻ってきたようだ。 「ま、いいか。足摺岬制覇〜」 夜の岬は何も見えなかった。が、とりあえず足摺岬も制覇したので、そろそろ今日の寝床を探す。体力的にはまだ元気なので、そのまま国道324号を西へ走る。 しばらく海岸沿いを走り、次第に山道へ入り始めた頃、道の駅に遭遇。 「・・・誰も居ない・・・」 山奥に、ポツンと、異様に静かな道の駅がある。駐車場には誰も停まってない。手前の道路も、車がほとんど走らない。 「静か過ぎる・・・。ちょっとヤバイね。イノシシとか」 と、イノシシのせいにしたが、ぶっちゃけ、これだけの雰囲気、お化けが怖い。 幸い、地図には、この先にも道の駅がある。ガスがだいぶ無いが、再び走り出し、次の道の駅を目指す。 山道を走り、海沿いを走り、そして再び山道を走りぬけ、やっと次の道の駅へ到着。すでにリザーブに入ってかなり走っている。ここまでの道には、1件もスタンドがなかった。久々の町となるここにも、残念ながらない。 仕方ないのでこの道の駅で朝までゆっくりしよう。 建物の陰の方に行き、バイクでバリケードを作るようにしてテントを設営。向こう側の駐車場には、地元のヤンキーがたむろしている。田舎の道の駅ってのは、どうも溜まり場になる。そりゃそうだ、他に遊ぶところないもんよ。 「ふ〜、さすがに疲れたな」 テントの中で横になると、どっと疲れが出てきた。そうか、今日の朝は淡路島にいたんだっけ。そりゃ疲れるわな。 程よい疲れで、すぐに夢の中へ・・・。 |