I'm unemployed - 第2章
「・・・うぁ〜あ・・・ぁ」 早朝の明るくなった空の下、目が覚めた。視界には、青い空と、白い雲。そして、夕日色の相棒。 「う〜ん、そっか、テント張ってなかったんだもんな〜」 昨日の夜は暗くてわからなかった道の駅の裏側には、田んぼが広がっていた。 「へ〜、こんな感じだったんだ〜。しかし、よく蚊に刺されなかったな・・・」 九州思いつきツーリングの時は、高速のSAのベンチで爆睡した朝には、唇がいかりや長介になってしまったのに、今回は無事だった。 顔を洗い、一服する。近くで昨日テントを張っていたカブは、既に旅立っていた。 「さて、混まないうちに、出ますかい」 7月とはいえ、まだ早朝。適度に涼しく、目を覚ますには調度いい。朝の国道1号を、甲賀、栗東と西へ進む。 ふと、見慣れないコンビニが目に入る。 「なに、COCOすとあ?」 朝飯がてらに入ってみた。関東にはない、このコンビニ。まだ朝が早いためか、充実度は・・・。 「さてと、今日はどこまで行ってみようか。と言っても、西だな」 そのまま国道1号を走り続け、車も少しずつ増えてきた頃、草津、大津と抜ける。そして、京都。 「京都なんて何年ぶりかな〜。修学旅行で嵐山の北野印度会社行って、ハズカシイ思いをしたのとか、想い出すな〜」 関東からだいぶ離れたので、そろそろ路地へ入ってもいい頃だ。広い国道ばかり走ってもつまらない。行く先々の、その土地の、裏通りには、全く知らなかった風景が溢れている。 「おー、これが鴨川か〜」 平日の通勤時間帯の京都市内に、横浜ナンバーの荷物満載が、キョロキョロしながら走る。 「お〜、道狭いな〜」 旧市街?の路地へ入ってみるが、ホントに狭い。 「Uターンかよ?」 バイクさえ通れない細い道。京都恐るべし。 「お〜、これが五重塔か〜」 既に観光客が数人居る門の、すぐ近くの歩道にバイクを停めて、一応記念撮影。でも、中には入らない。 「ふ〜、さてと、次は大阪ですかい」 観光はそこそこに、次を目指す。 「おいおい、オービス2連荘であんのかよ! 関東にゃねーぞ、そんなん」 すでに関東の雰囲気とは違う町並みを、適度に混みだして苛ついているやつらと大阪を目指す。 だいぶ気温も上がってきた。 「おー、大阪到着じゃー!」 東京とは違う、ごちゃごちゃした町並みの、渋滞をすり抜ける。 「なにしよるんボゲッ!」 ウィンカーを出さずに左折するクラウンに巻き込まれそうになり、ぶち切れる。 「へ〜、ここが御堂筋ね〜」 ごちゃごちゃした道をすり抜け、なんとか幹線道路へ。 「あー、さっさと出よう。大阪市内はつまらん」 こんな荷物満載で平日の大阪市内を走っても、何もいいことはない。ぶっちゃけ、東京よりムカツク! こんなとこ、さっさと出るに限る。 「お〜、なんや、甲子園球場やん」 甲子園といえば、高校野球。高校野球といえば、タッチだ。カッちゃんが死んじまった時には、南ちゃんと一緒に泣いたな〜。。。何年前だっけ? そんな少年時代を思い出しながら、国道43号をそのまま神戸へ。 「あ〜、想い出すな〜、九州行ったときの事。まだ震災の傷跡残ってたもんな〜」 神戸市内を軽くたしなむ。昔走った時の様な震災の傷跡は、もうすっかり消えていた。 「やっぱ、神戸はイイ街だな〜」 昔からなんとなく好きな街だ。 「そうだ、六甲山に登ろう!」 ふと思いついた。六甲のおいしい水の、六甲山。さっそく有料道路で金を払い、プチ峠的な道を進むと、小さな駐車場から、神戸と大阪の街並みが見える。そして、駐車場の看板で現在位置を確認する。 「へ〜、六甲山って、一つの山ぢゃないんだ〜」 勘違いをしていた。六甲山って、函館山みたいに、一つの山があって、その頂上からみる景色がイイ感じなんだと思っていた。 「ま、関空は確かに見えるわな。今度神戸に引っ越したら彼女と来よう」 そんな訳わかんないことを考えながら、そそくさと降りる。どうせデートスポット。ぷーバイク乗りが独りで来るところじゃないだろ。 再び神戸の街に降り、前に走ったときは震災の傷跡が見え隠れしていた道を通り抜け、そして、明石へ。 「お、やっぱ明石海峡大橋通んなきゃな〜」 陸地から見ても、その雄大さを感じられる明石海峡大橋。その橋の下で入り口を探すが、無い。標識を見ても、どうも良く分からないので、歩道に停まり地図を確認する。 「なんだ、回り道しなきゃだめぢゃん」 結局少し戻り、標識の通りに走る。 「お、ここだね」 標識には徳島の文字。ここから入れば明石海峡大橋につながる。 「よっしゃ〜、行くで〜」 橋の手前の、長いトンネルをぶっ飛び、そして、一気に視界が開けた。 「うっひょーっ! いいね〜!」 巨大で高い鉄塔に支えられた橋の両サイドには、瀬戸内と、そして、行き交う船。空気は霞んで遠くまでは見えない。でも、すこぶるキモチイイ。速度を落とし、左車線をゆっくりと走る。 「人間ってのは、すごいね〜。こんなん作っちゃうなんて」 しばらくすると淡路島が見えてきた。標識には「ハイウェイオアシス」の文字。 「なんだそれ?」 とりあえず入ってみる。 「おー、デカイSAだな〜。」 淡路島の北端の、だだっ広い駐車場からは、橋と、瀬戸内と、神戸の町並みが見える。 「う〜ん、関東には無い風景だな〜」 そう、こんな感じの、瀬戸内の風景は、なんとも言えない。 自分が陸にいて、目の前は海なのに、その先にはまた陸があり、自分自身、どちらへも行き来できるなんて。 なんか、美味しいところが一箇所にかたまっているようで嬉しくなる。 とりあえずの記念撮影をして、そのまま高速を降りる。 「おっ、道の駅あんじゃん」 高速を降りてすぐ、道の駅がある。ここもとりあえず行ってみる。 「お〜、橋の下なんね、ここは」 道の駅からは明石海峡大橋を見上げることが出来る。デカイ。 「さて、どっちへ行こうか・・・。やっぱ、こっちだね」 東海岸と西海岸。気分的には西海岸だ。そそくさと道の駅を出て、県道31号をちんたら走り出す。島の海岸沿いを走る、なんとものんびりした道だ。 「いいね〜。うん。なんか、いいね〜」 今までの人生で、「島」を走ったことは意外と少ない。数年前に岩国へ行ったときの屋代島、もっとも、吉本のおやじさんのカローラの助手席だったが。それと、オレの好きなしまなみ街道。あとは北海道の礼文島。海が一番透き通っていたのは礼文島だな。あそこは外海の島だから。 この淡路島は、またちょっと違った雰囲気だ。 「おっ、野島断層? そうか〜、あの震災の!」 阪神淡路大震災のときの震源地、野島断層が北淡町にある。これは見なくてはならない。看板の通り走ると、数件と出店と、長い建物があった。 バイクを停め、入館料を払い、見物する。 「ほほ〜、すごいね〜。こんなにズレてんの」 見事に大地がズレている。これがあの、大震災の元凶。 こんな、歴史的にも大きなインパクトのあった地点は、比較的興味を惹かれる。なんか、生きているうちに、実際に見て、感じて、考えておくべきだと。 「さてと、道楽に戻りますか」 以外と時間を掛けて見物し、野島断層のイメージをしっかりと心に焼き付け、再び県道31号を南下する。 右手に海を眺めながら、程よい道幅を、適度にわき見をしながら走る。 「おっ、キャンプ場?」 緩い右カーブを終えて左カーブに入ろうとする海の前に、その看板は立っていた。さっそく入ってみる。 「・・・これがキャンプ場? マジで?」 県道31号からそれてすぐの所、小さな空き地に、小さな松の木と、小さなトイレと、小さな水場がある。北海道育ちのオレにとって、この小さなスペースは、キャンプ場というより、公園だ。いや、オレの実家の目の前の公園の方が3倍以上デカイ。 でも、目の前の防波堤の先には、瀬戸内が広がっている。 「ふ〜ん、変なキャンプ場」 再び県道31号へ戻り南下する。右手には、泳げそうな砂浜が、所狭しと見え隠れする。でも、意外と岩場が多い。小さな町を通り抜けながら、道はいつしか狭くなり、そして、大鳴門橋の麓へ。 「な〜るほどね〜、こんな感じになってんのね」 西海岸は走り終えた。だから、今度は内陸沿いに戻ることとする。 「さて、今日はさっきのキャンプ場に泊まろうか」 下道を適当に走り、さっき見た明神キャンプ場へ。途中のスーパーで肉とビールを買い、クーラーボックスには氷。 こじんまりとしたキャンプ場には、既に先客が数台。車の家族だ。幸い、テントを張るスペースはまだある。防波堤前の松の木の下に、5年以上お世話になっているボロテント、そう、たしか3980円の激安品だったが、慣れた手つきで設営する。 夕日にはもう少し時間があるが、とりあえず、防波堤の上でビールを開ける。 「く〜っ、最高じゃん!」 島の小さな集落の、小さ広場のキャンプ場。目の前には瀬戸内。少しずつ低くなってゆく太陽を眺めながら、ビールとタバコ。 「あ〜、さいこー。来てよかったな〜」 ふと、横の小高い丘の、鳥居を見つめた。 「おっ、挨拶するか」 その小高い丘の上には、明神様が祭られていた。階段を上がり、ご挨拶。きっと、この集落と、海の守り神。 「お世話になります・・・」 そう、心の中でつぶやき、再び防波堤の上へ。 陽が沈むまで、ひたすら呆ける。最低限の束縛しかない自由。 テントの前に戻り、小さなパイプイスに座り、メシを焚き、肉を焼き、そしてビールを飲む。 いつしか空き缶が増え、そして、今夜は、防波堤の向こうから、かすかに聞こえる波の音を子守唄にして・・・。 |