Go to south - 第5章
空もだいぶ明るくなり、周りの景色が魅力的に写る。 「ちくしょー、もっと堪能してーなー!」 そんなグチをこぼしながら、とうとう門司へ到着した。昨日の朝、本州から九州へ渡った時は、高速の橋を利用したので、今回は低速のトンネルを使う。排気ガスで真っ黒になった壁。幸い、まだ朝のラッシュではない。普通に走り抜け、再び本州へ。 「じゃーな九州! また今度来るよ!」 さあ、本州へ戻ってきてしまった。この先どうする? 装備の事を考えると、あまり遠くの土地で長居するのは良策ではない。ある程度地元へ近づく必要がある。 「うーん、この装備じゃチンタラ走ってられないしなー・・・、とりあえず、広島までぶっ飛ぶか!」 広島までのルートを考える。まあ、もう少し経つと通勤ラッシュにぶち当たる頃だ。とりあえず高速を使った方が良さそうだ。 下関から中国自動車道に乗り、適度に休憩をとりながら広島を目指す。途中の分岐で山陽自動車道へ入り、さらにぶっ飛ぶ。 瀬戸内の風景を堪能しながらしばらく走ると、行きのルートで寄る予定だった岩国インターへさしかかった。しかし、今回はパス。広島まで直行する。 「もうちょっと装備がな〜」 今更ながら、装備の少なさにちょっと後悔する。まあ、宿泊の事だけを考えると野宿でもなんでもいいのだが、着るモノが1着だと洗濯にも困る。YGの白いTシャツは排気ガスでかなり黒ずんできた。 前方に広島インターへの出口が見えてきた。ゆっくりとスピードを落とし、ゲートをくぐる。 「さーて、どっちかな?」 なぜ広島なのか。そう、広島といえば、日本の歴史の中でも、大きなインパクトのあった土地。原爆投下という過去の事実が、原爆ドームの存在により、現在へもつなぎ止められている土地だ。その原爆ドームへ行きたかったのだ。 インターを降り、標識を見ながら中心街へと走る。気温はかなり高く、日差しも強い。1年前まで北海道人だった自分にとっては、今までの人生の中で体験したことのない暑さの夏だ。でも、気持ちがいい。なぜって、そりゃ、夏が好きだから。 そんな茹だるような暑さの中、原爆ドームへ到着した。バイクを歩道の隅へ停め、ヘルメットを脱ぐ。頭は汗で濡れている。Tシャツは黒ずんでいる。腕は日焼けで赤い。観光客がかなり居るが、自分だけ違う世界から来た住人のようだ。 とりあえず、露天のイチゴ味かき氷をむさぼりながら、一服する。 「これが原爆ドームか・・・」 初めて見る。テレビや写真でしか見たことのない、日本、いや、世界でも二つと無い、被爆した大きな建物。なんとも言えない心境だ。実際に、ここの土地に、原爆が落とされて、そして、多くの人が亡くなったという事実。今見える風景に、この原爆ドームが無かったら、想像できないかもしれない。 昔、この原爆ドームの壁にイタズラ書きがされたというニュースを見たことがある。どっかのバカヤンキーだと思うが、ホントにアホだ。なに考えてんだか、そーゆーヤツは呪われて死ね。 戦争や核兵器について考えながら、再びバイクに跨った。そして、市内を軽く流す。路面電車の電線や線路が、なんとなくゴチャゴチャした雰囲気を感じさせる。そして、中心部を流れる川。昔読んだ「はだしのゲン」を想像しながら、ここで様々な悲劇があったことを感じ取っていた。 「・・・さあ、次行くか!」 2号線に出て東へ進路を取る。この2号線、なんだか混んでいて、それでいて道が古くさく、昔テレビで見た排気ガス公害のシーンのようだ。まあ、実際かなりの排気ガスが充満している。それでも、初めて走る雰囲気の道。なんとなく新鮮だ。 しかし気温が高いので、チンタラ走っていては体力を消耗するだけだ。適度にすり抜けをして先を急ぐ。 1時間程走って、尾道へ着いた。尾道といえば坂の町?だったと記憶している。たしか「転校生」って映画のロケ地でもあったな。 「たしかに、坂は多いなぁ」 走りながら脇見をすると、何じゃこりゃって感じで山の上に住宅が建っている。大きめの交差点で左へ曲がり、2号線から北への道へ進路を変え、コンビニで一服する。山の上に建っている古い瓦の家や、用水路のような川と、それに沿って植えられている柳の木。北海道には絶対ない風景だ。 「これが尾道ね〜。なんとも、風流だね〜」 コンビニ弁当を食いながら、地図を広げ、次の目的地を検討する。 「ん? なんだ? ここから四国に上陸できんじゃん!」 地図を見ると、瀬戸内の島々を橋とトンネルを経由して四国へ上陸出来るようだ。有料道路ばかりだが、まあ、走ってみる価値有りだ。 弁当を食い終わり、早速入り口を探す。2号線へ出るとすぐに入り口を発見。 「よし、瀬戸内の島々へ乗り込むぜー!」 橋から見る眺めはなかなかいい。近くにも、遠くにも、瀬戸内の島々と、行き交う船が見える。どれもこれも初めてみる風景。やっぱ来て良かった。 橋はすぐに終わり、島へ上陸した。せっかくなので、四国へ直行せず、島を1周してみる。考えてみると、バイクで島へ上陸するなんて初めての経験だ。数年前に出張のおまけに厳島神社のある厳島、宮島とも言うようだが、そこへ上陸したのが、今までの人生で唯一の経験だった。その時は船だったが。 「ほほー、これが瀬戸内の島かー。なんだかのどかだなー」 砂浜あり、民家あり、山あり。でも、そんなすべてが、何となくのどかな雰囲気に包まれている。 「よし、こうなりゃ、全部の島に降りて探検だ!」 向島から因島への橋を渡り、同じように1周を試みる。が、この島は海沿いの1周は出来ないらしい。ちくしょー、それじゃあ、次の島だ。早々と引き上げて、次の生口島へ渡る。 「ほほー、やっぱのどかだなー。老後はこんなのどかなところで、ゆっくりするのもいいかな」 のどかな雰囲気がかなり気に入っていい気分になっていた。ゆっくりと道を流す。が、何かがおかしい。すでに1周したのに、次の島への道が解らない。路肩にバイクを停め、防波堤の上へ座り地図を開く。 「・・・もしかして、これは・・・」 地図で見ると、次の大三島まで、点線で道がつながっている。それをトンネルだと早合点したようだ。一応、通りがかりの地元のおばちゃんに聞いてみる」 「すいません、大三島までの橋とかってないんですか?」 「まだ出来とらんよ」 ・・・やっぱりか。 どうする。船か?いや、船はダメだ。自走にこだわるんだ。そうすると、一旦引き返して瀬戸大橋を渡るしかない。 「ちくしょー、しまなみ海道、いつか制覇してやるー!」 そう叫びながら、高額の通行料を払って、着た道を帰る。この道、ホントに高いよ。 まあ、でも、瀬戸内の島々を初体験出来たってことで、無駄じゃあなかった。そう考えながら、再び2号線を東へ走る。 「福山市? そうか、福山ナンバーってのは、ここの事か!」 などと新しい発見をしながら、右手に瀬戸内海を見ながら先を急ぐ。時計の針は既に4時を回っている。 「あれ?おれって、寝てないよなー」 そう、ほとんど仮眠しかしていない状態なのに、全然元気だ。たぶん、すべてが新鮮で、心の高揚が終わらないのだろう。人間ってのは、好きなことをしているときが一番幸せなんだな。 「よっしゃー、倉敷だー!高速乗るべし!」 早島から高速に乗り、そのまま瀬戸大橋方面へ。 「・・・え?瀬戸大橋って、そんなに高いの?」 片道ヨンセンエン?往復チケットは割引込みで7千いくら。それじゃあ、往復チケットだ。 チケットをタンクバッグに入れ、全開で加速する。前方に高い橋脚が見える。 「うひょー!いいんじゃない?!」 さすがに瀬戸大橋、かなりデカイ。右手にも左手にも、瀬戸内の海と船。スピードを程良く落とし、ステップに立ち、周りの風景を堪能する。壮大かつ日本的だ。 途中、与島のパーキングへ立ち寄ってみる。 「おおー、デカイ駐車場だ。ここなら野宿できるなー」 開通同時はたくさんの客で賑わっていただろうこのパーキング、今はクルマもまばらで、ゆっくりできる。 「まあ、別に観光する場所じゃあないな」 再び本線に戻り、風景を楽しむ。前方には四国。スピードを上げ、初めての地を目指す。 橋の下に見えていた海が、陸に変わっていく。四国上陸だ。 「うおーー? なんじゃこりゃっ、すげーなー、おいっ!」 上陸した途端、虫がバンバンぶつかってくる。慌ててスピードを落とすが、シールドは虫の残骸でいっぱいだ。 坂出を過ぎ、坂出ジャンクションを高松西方面へ。低い山並みの中を走り、しばらくすると高松西インターへ到着した。 「ふー、これが四国か」 ゆっくりと高松の町並みを走る。何となく風情を感じるが、すでに夕暮れ、夜を迎える前に寝床を探す必要がある。そう、ずっと寝ていないからだ。 「よし、帰るか」 今回は四国上陸を果たしただけで満足だ。この土地も、またいつか、ゆっくりと堪能しに来よう。 再び高松西インターから高速に乗る。そして再び瀬戸大橋へ。 夕暮れの空に包まれながら、橋の上をゆっくりと走る。1年前までは北海道と東北の一部しか走ったことのなかったオレが、この3日で九州や四国まで上陸してしまうとは。これも、こいつのおかげだな。 |