Go to south - 第6章

再び本州に上陸し、そのまま山陽自動車道を東へ。すぐに吉備SAを発見。休憩と晩飯を食うために入った。道路の端にバイクを止め、建物の中でソバを食う。高速のパーキングで食うモノと言えば、やっぱりソバだ。食い終わるが、まだ足りない感じがするので、アメリカンドッグを買い、食いながら外へ出た。

缶コーヒーを買い、ふと気が付いた。そう言えば、風呂に入っていない。ジーンズもTシャツも、かなり汚い。当然足も臭い。
ちょうどいいことに、小さな人工池があった。その縁へ座り、ブーツを脱ぎ、裸足の足を水に浸ける。
「うひょー、気持ちイイーー!」

ほとんどホームレスのような風体で、タバコを吸いながら周りを見渡すと、近くにスティードとRFが停まっている。ナンバーは札幌だ。
「札幌かー、なつかしいなー」

しばらくして、缶コーヒーを飲みながら、アメリカン野郎がスティードへ戻ってきた。軽く手を挙げると、向こうも手を挙げてこっちに歩いてきた。

「札幌から来たの?」
「おー、2台でね。どっから?」
「川崎」
「川崎って?」
「神奈川県。えーと、東京と横浜の間」
「ああ、横浜の近くね。それじゃあ帰るとこ?」
「そう、富士山行くつもりで走ってたら、九州まで行っちゃって」
「あー、俺らも九州行って来たよ」
「ホントー、じゃあ今帰りだ」
「そーそー」

アメリカン野郎はタバコを取り出し、火をつけた。
「いいねー、気持ちいい?」
「おお、気持ちいいよ。風呂入ってなかったから」
「だよなー。結構汚いもん」
「ちょっとやばいかな?」
「大丈夫でしょ。バイカーなんてそんな感じだよ」
「だよな」

アメリカン野郎は隣に座り、ブーツを脱ぎ、水に足を入れた。
「おー、気持ちいいねー」
「だろー」

汚いバイカーが二人、パーキングの人工池でくつろぐ。
「なつかしいなー、札ナン。おれも半年前まで苫小牧にいたんだよ」
「ホントー?苫小牧かー、近いじゃん」
「んー、札幌にも時々遊びに行ったよ。友達も居るし」

すっかり意気投合した汚いバイカー二人は、アメリカン野郎の連れの事を忘れて、地元ネタで盛り上がっていた。
「これからどーすんの?」
「うーん、とりあえずここで寝て、明日はぷらぷらする。でも装備が全然ないから、早めに帰るけど。そっちは?」
「うちらは日本海側に出て、明後日舞鶴からフェリーに乗るけど・・・、連れがさ、初めてのツーリングでよ、なんかもう帰りたいとか言ってんの。オレはもうちょっと走りたいんだけど」
「そうか、初めてじゃ、ロングはきびしいべー」
「そーなんだよな。どうするべー」
「うーん、もう帰るだけなら、別々で帰ってもいいんじゃねーの?」
「やっぱそう思う?」
「うん、その方がお互い気持ちよく走れるべ」
「そうだよなー。ちょっと言ってみるかな」


・・・1時間も話しただろうか。二人とも疲れが出始めていたので、寝床作りの為に、それぞれのバイクへ。
「さー、どーすっかな?オレはベンチで寝るしかないしな」
札ナン2人を見ると、テントを張っている。やっぱ、ベンチよりテントだよな。まあ、仕方ない。タオルを頭に巻いて、ベンチに横たわった。今回のツーリングで、初めての本格的な睡眠に、すぐに眠りにつく事が出来た。


「・・・うぁ〜っ・・・・」
目覚めると、すでに空は明るくなっていた。寝ぼけながら、顔を洗うためにトイレへ行く。
「ななっ! なんだこれは!」
鏡で見たオレの顔は、上唇が「いかりや長介」になっていた。寝ている時に蚊に刺されてしまったようだ。なんでこんな所刺すんだ?
「うう、なんかハズカシイな・・・」

一般人に見られるのが恥ずかしくて、上唇を噛みながら外へ出た。見渡すと、昨日の札ナン2人は既にに旅立っていた。そりゃそうだ。時計の針は8時を回っている。まあ、おかげで疲れはすっかりとれた。

「さーて、どうすっかな?」
目覚めの缶コーヒーを飲みながら、タバコを吸い、バイクの元へ。見ると、メーターの隙間に紙が挟まっている。

「けっきょく、別々に行動することになりました。気をつけて。札幌」
汚い字で書かれていたその紙を取り上げ、昨日の事を思い出し、そして、少し微笑んだ。
「Good Luck!」

今日も天気がいい。寝不足も解消し、疲れもとれた。
「さーて、こっちも出発するかー」
バイクに跨り、一晩お世話になったSAを出て、進路を東へ。すぐに岡山インターで高速を降りる。あとは一般道でちんたら走ろう。

岡山の街を軽くやり過ごし、2号線を東へ走る。既に道は混み始めている。その中をテンポ良くすり抜けをしながら、今日も目的地を考える。
しばらく走ると、標識に姫路の文字。
「よし、姫路城でも見てみよう」

距離はそれほど遠くない。しばらく流れに乗って走っていると、姫路へ着いた。
軽く城の周りを走り、門の前の歩道へバイクを止める。
「腹へったなー」
門の反対側の歩道に、旨そうなソバ屋がある。ソバは昨日食ったが、オレにとってソバは特別な好物。連続で食っても飽きることはない。

「まあ、とりあえず食うか」
そう思い、道路をわたってソバ屋の前まで来たが、ガラスに映った自分の姿を見て我に返った。
「うー、こんな汚い格好じゃあ、店に迷惑だな・・・」
そう、白いTシャツは、とても白とは言えない色になっている。クサイにおいを漂わせているんだろうが、オレには感じ取れない。たぶん、マヒしているんだろう。

「仕方ない、姫路城を探検するか」

入場料を払い、城内へ入る。現存する日本の城なんて、とても刺激的だ。生まれ育った北海道には日本の城はない。洋風の城である五稜郭はあるが、日本の城とは似ても似つかない。
中学の修学旅行で弘前城へ行ったことがあるが、姫路城はそれとは比べモノにならないくらい大きな城だ。

さすがに、本丸への道は結構長く、おまけに登りだ。なるほど、敵に対する防御の一つなのね。
それを証明するかのように、やっと本丸の入り口へたどり着いた時には、腹が減っていることも手伝って、結構疲れていた。しかし、今度は本丸の最上階まで行かなくては。

本丸の中は以外とシンプルだ。まあ、実際に人が居たときにはもっと色々なモノがあったと思うが。
普通の観光客に混じり、次々と階段を上る。
「腹減った〜」
やっとの思いで最上階へたどり着いた。窓から外を見る。
「おお、なかなかの絶景!」

しかし、姫路城を制覇したオレの頭の中は、飯を食うことでいっぱいだった。そそくさと階段を下り、急いでバイクの元へ帰る。
「おっ、コンビニ発見!」
そしていつものように弁当と牛乳を買い、いつものようにバイクの元で座りながら食べる。

「ふ〜、生き返った・・・」

一服しながら姫路城を見上げる。ホンモノを目の前にして、改めて自分が思いきった行動をしていることを実感する。一般人にとっては、理解不能な行動だと思うが。

腹も落ち着いたのでそろそろ動くことにする。と言っても、あとは帰るだけだ。バイクに跨り、ゆっくりと車道へ出る。すぐに2号線へ合流し、進路を東へ。程良く混雑してきた道をゆっくり走ると、すぐに明石へ。
「・・・そう言えば、阪神大震災の影響って、ここら辺もデカかったよな」

半年前、オレはまだ北海道にいた。1月17日、仕事前の朝のニュースで、燃えている神戸の街が写されていた。まさかこんな惨事が起こるなんて、誰が想像出来ただろうか・・・。
しかし、そんな気持ちも、半年経った現在では、かなり薄らいでいた。

「復興は進んでるってニュースで言ってるもんな。どんな感じかな?」

ほんの少し、興味本位の心が浮かんでくる。右手に海が見え始め、少しずつ神戸の街へ近づいてきた。幹線道路から見る町並みは、それほど痛んでいる様子はなく、ニュースで伝えられていたように、復興は進んでいるようだ。

「なーんだ、結構大丈夫みたいだな。さすが経済大国だ」

そのうち渋滞は酷くなり、所々で交通整理が行われている。止まったり動いたり、そのおかげで、かなり脇見をすることができる。

「・・・。・・・すげぇ・・・」

幹線道路から見たその路地は、倒れた電柱と、崩れた家の残骸で埋もれていた。あるところでは人々が集まり、あるところではショベルカーががれきを集め、ダンプへ積んでいた。
よく見ると、歩道もひび割れているところがある。

「全然直ってないじゃん・・・」

さっきまでのバカな先入観や安易な気持ちは全て吹き飛んだ。
みんな一生懸命に復興に力を注いでいる。オレみたいなヤツが、こんな軽々しい気持ちで来てはいけない所だ。

「スンマセン・・・みんながんばって・・・」
そう心の中でつぶやきながら、少しずつ流れ始めた渋滞の中で、平和惚けした自分を恥じた。

あらためて一般的な情報だけでは、現実を正確に判断する事は難しいと感じた。
だからオレは、実際に見て、感じて、自分自身で判断する事を重視しているんだ。その結果がバイクで走るって事にもつながっている。

色々な事を考えながら走り、大阪に入る頃には混雑していた道もかなり流れ始めた。
「よし、あとは高速使うか」
豊中インターから名神自動車道へ乗り、そのまま東へ向けてスピードを上げた。
あとはぶっ飛ぶだけだ。本当は京都にも寄りたいが、神戸の現実を見た直後では、どうも気持ちが乗らない。

幸い高速はイイ流れだ。夜までには帰ることが出来るだろう。
数日前に通ったばかりの道。しかし、進む方向が違うと、見える景色も違う。まあ、ゆっくり景色を堪能出来るようなスピードではないが。

「どーすっかなー、やっぱ、こっちだよなー」
名古屋近くでルートを考えた。東名自動車道か、中央自動車道か。結局、小牧JCTで中央自動車道へ。どちらが近いのか、早いのか、まあ、そんなことよりも、中央自動車道を選んだ理由は簡単、初めての道が好きなだけだ。

東名と比較すると、かなり山の中を走る感じだ。まあ、今まで都会的な道ばかり走ってきたので、なんとなく気持ちよく走れる。かなり強行日程だったせいもあって、だいぶ疲れも出てきているが、東名の景色よりも緑が多いのは、気持ち的に楽だ。

岡谷JCT手前で少し渋滞にハマるが、すぐに流れ始める。甲府を過ぎ、大月JCTにさしかかる頃から、少しずつ流れが遅くなる。その中を程良くすり抜けをしながら、調布インターまで走り、高速を降りた。

「富士山へ行く予定が九州まで行ってしまうとは、我ながらかなりの強行日程だったな」

ゆっくりと一般道を走り、見慣れた風景、そして、寮へ着いた。
駐車場へバイクを停め、寮へ入り、すぐに風呂へ。体は見事なまでに黒い。溜まった垢をそぎ落とし、やっと普通の人間に戻った感じがした。

部屋へあがり、お決まりのビールを流し込む。

「今度はちゃんとしたツーリングで行こう」

いつか、また、西、そして、南へ向けて。


第5章へ    旅トップへ