Go to south - 第3章

「うーん、どうすっかなー」

走る楽しみが大きくて、名古屋で降りる気持ちになれない。仕方ないので、そのまま名神高速へ。

「ほー、ここで中央道と合流すんのか。すげーな、なんか」
これが日本の大動脈。なんとなく、感動だ。まあ、今まで北海道でしか生活していなかった自分が、いかに無知だったかという証明だな。

前方に山と、田園風景、そして養老SAの表示が見えた。
「おっ、なんかいーね。ちょっと休憩すっか」

何となく風景が良くて、養老SAに入り込んだ。歩道の脇にバイクを止め、一服する。何となく、懐かしい感じのする風景だ。なぜだろう?北海道人のハズなのに・・・。
しかし、観光バスが多く、おばちゃんがぞろぞろとトイレに入っていく風景は、なんとなく騒々しく、あまり長居する気持ちにはなれなかった。

「さーてとっ、どーすっかなー、ここまで来たら、大阪行ってみるか」

再びバイクに跨り、本線へ。目的地は大阪に変更だ。風景を堪能しながら走ると、関ヶ原の表示が見えた。関ヶ原と言えば、あの関ヶ原の戦いの関ヶ原か?などと想像しながらさらに先へ進む。自分の頭の中の地図では、名古屋と大阪は、結構近い距離だったのだが、実際は結構離れている事を、表示板が教えてくれた。

「よーし、ちょっと飛ばすか!」

再び速度を上げて走る。次々と知らない地名が現れる。
「竜王? なんだ?ドラクエか?」
「クリトウ?? 知らんな〜」
「京都か〜。京都なんて修学旅行で来たとき以来だな」

修学旅行の時の想い出が浮かんでくる。そう、たしか京都の嵐山に、ビートタケシのカレー屋があって、そう、北野印度会社ってやつだ。そこでは、1皿に2種類のカレーを盛ることが出来るのに、知らなかったおれは、ビーフとビーフにしてしまったのだ。その日は頭から「ビーフとビーフ」という言葉が離れなかった・・・。


すでに太陽は沈んでしまい、辺りはすっかり暗くなってしまった。早く大阪へ行かなければ。しかし、この辺の車はガラが悪いような感じがする。大阪人って、やっぱせっかちなんだろうか?今まで以上にぶっ飛んでいる車が多い。なんか、ほとんどがセドリック系の車だ。
バイクは夜、カーブではバンクさせるとヘッドライトが遠くを照らさない為、あまりスピードを出したくないのに、車がぶっ飛んでくるので負けじとこっちもぶっ飛んでしまう。

「なに、吹田ジャンクション?うーん、中国道へ行こうか」
止まって地図を見りゃいいのに、なぜか止まりたくない。全然土地勘の無いところでも適当に走り続ける。

「・・・うーん、大阪って文字が無いな・・・」
もしやと思ったが、時すでに遅し。大阪を通り越して、どんどん内陸へ入っている。
「うー、よし、こうなったら岩国だ」
そう、岩国には会社の工場があって、数年前に出張で訪れているのだ。また目的地を変更する。
「よーし、岩国いくぞー!」

もうすっかり夜になってしまった。まあ、朝には岩国工場を見ることが出来るだろう、などと安易に考えていた。

初めての土地で、初めての地名ばかり。その夜の暗闇をひたすら走る。中国道は非常に走りやすい。しかし、ぶっ飛んでもぶっ飛んでも、景色は山の中。たしか、岩国は海沿いのハズ・・・。それに、どんどん標高が高くなっている。おまけに寒い。
不安になって、朝倉PAに入って地図を見た。

「・・・全然違うじゃん・・・」

岩国は遙か南。さすがに愕然とした。寒いし、腹へったし、眠いし。ベンチで一休みしようと横になるが、体が冷え切ってしまっていて、非常に寒い。
「ちくしょー、山降りないとダメだな」

仕方ないので先へ進む。こんな時、バイクって不便だなーと、つくづく思う。もし、車なら、温度調節も自由、寝るのも自由。でも、やっぱ、バイクって、いいんだよな。


標高が下がるにつれ、気温は上昇してきた。よし、これなら大丈夫。しかし、今更岩国へは行けない。どうする・・・。

「ここまで来たんだから、本州の端まで行ってみるか!」
目標は本州最西端へ変更。このまま走れば朝までには余裕で着く。しかし、走りっぱなしで少々疲れが出ているので、ヘルメットを被ったまま、湯田PAのベンチで一眠りすることに。


「・・・かゆい」

1時間くらい寝ただろうか。腕が蚊に刺されている。まあ、当然だろう。
缶コーヒーを飲み、タバコで一服。空は少しずつ明るくなってきている。なんともすがすがしい朝だ。

「よっしゃー、行くかベイベー!」

下関はもう少しだ。120kmくらいで巡航する。しかし、よくこんな遠くまで来たもんだ。昨日の昼は神奈川だったのに、今は山口、まったく、バイクって乗りモンは早いな。

朝日を浴びながら、気持ちよく走る。そして、ついに下関までたどり着いた。

「おっしゃー、下関だー!」

喜びもつかの間、ここまで来たなら九州は目前だ。そう思い、下関で降りずに九州へ。
関門海峡を渡りながら、朝飯のメニューを考えた。
「下関と言えば、なんだっけ、関サバか?いや、フグか?」

サバは時期じゃない。で、フグに決定し、門司で高速を降りた。東名川崎から門司まで、すべて高速を使うなんて、すごいな。

「おーっし、九州上陸したぞー!」
さあ、次はフグだ。なんて豪華な朝食なんだろう。今までろくなモン食っていなかったので、心は浮かれ気分だ。ゆっくりと町中をさまよい、フグの食える店を探す。

「・・・・・・うーん、店、閉まってる・・・」
そりゃそうだ。まだ7時。こんな時間からフグの食える店なんて、無い。仕方なくコンビニへ入って弁当を買う。これじゃあ、いつもと同じじゃないか。

通勤の車が走る道の歩道で、バイクを止めて座り込み、ゆっくりと弁当を食べる。歩道に座って弁当を食べるなんて、バイクを知る前は出来なかった事だ。バイクで色々回ると、羞恥心なんて、結構簡単に捨てることが出来る。いい道具だ。

ふと気が付くと、歩道の街路樹が南国仕様であることに気づく。
「おー、南国だ。なんだっけ、フェニックスだっけ?」

そう、このフェニックスってやつ、結構好きだ。南国の雰囲気をかもし出してくれる、なんとも言えないヤツだ。数年前、出張で別府へ行ったときに、初めて実物を見て、なんともいい感じだったのを思い出した。そんな想い出に浸っていると、ケータイが鳴った。

「もしもし、ふぁんきー、起きてた?」
「おー、イデかー、起きてたよ」
「今日大丈夫?結構早めに出ようと思うんだけど・・・」
「いや、大丈夫じゃない。今九州なんだ。門司」
「は?九州って、九州?」
「そう、九州。富士山行くつもりが九州まで来ちゃって」
「あははー、アホじゃないの?」
「ははは、わりーな。今日行けねーや。」

・・・アホだ。自分でもそう思う。昨日の昼までの予定では、今日は清里の別荘へ遊びに行くんだったのに。まあ、来ちまったもんは仕方ない。現実を認識して、しっかりと楽しむだけだ。

「さーてと、どうすっかなー。せっかく九州上陸したんだから、やっぱ最南端でしょう!」
そう、心の中で誰かがささやいている。「 Go to south! 」


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