Go to south - 第2章

いくら何でもおかしい。そう判断して、サービスエリアへ入った。
バイクを止め、しばらくクールダウン。とりあえず、タバコを1本吸ったところで、油温計を確認すると、まだ針は振りきったままだ。そんなはずはない。しかし、たたいても、ゆすっても、振り切った針は戻ろうとしない。

「あーあ、やっぱぶっ壊れてる。買ったばっかりなのになー」
トホホだ。北の大地の夏でさえ熱ダレしていたこいつのために、油温計を取り付けて、しっかりとした油温管理をしようと、つい先日上野で買ってきて取り付けたばかりなのに。

「どうかしたんすかー」

振り向くと、ちょっとハングリーな格好をしたライダーが立っていた。

「うーん、なんか油温計がぶっ壊れちゃって、たぶん振動でダメになったかな」
「あー、すごく飛ばしてたからねー。さっきブチ抜かれたんだけど」

ハングリーなライダーが指さした先には、名古屋ナンバーの白くて汚い、荷物満載のNSRが停まっていた。

「あー、そういえば、居たねー」

ついさっき、ほんの少しだけランデブーをしたバイクだ。最初にブチ抜かれたのはオレで、その後、抜き返したのだ。

ポケットからタバコを取り出し、二人で一服をしながら話し込む。

「どっか行って来たんすか?」
「ちょっと北海道に、2週間。これから名古屋に帰るところなんだけど」
「へー、北海道かー。半年前まで北海道に住んでたんだけど、今神奈川に引っ越して来て」
「へー、北海道のどこ?」
「苫小牧」
「おー、おー、フェリー乗るところね」
「そーそー」
「これからどこ行くの?」
「ちょっと富士山まで行こうかなーって思ってたんだけど、飛ばしてたらすぐ着いちゃって、まあ、とりあえず、行けるとこまで。」
「それなら、もし名古屋に行ったら、よく行く名古屋のショップに顔出してみて」

ハングリーなライダーは、財布から、ちょっとくたびれた名刺を取り出し、オレに渡した。

「その名刺見せて、名前言ってよ。オレ出てくるから」
「へー、じゃあ、名古屋に行ったら寄ってみるよ」

よし、目的地は名古屋に変更だ。

「じゃあ、またどこかで」
「気を付けて。それじゃあ」

ハングリーなライダーとサインを交わし、オレは先に本線へ。

「さーってと、名古屋かなー!」

こうなったら、とりあえず名古屋に行ってみよう。日はまだ高い。やっぱり夏は最高だ。
相変わらずぶっ飛びながら、それでも初めてみる景色を堪能していた。


「おー、海が見えるなー」

遠くに海を見ながらスムーズに走る。工場の煙突や町並みが見えてきた。

「ちょっとくせえな。富士市か?ここは」
ヘルメットを被っていても、しっかりとクサいにおいは感じ取れる。まあ、北の大地に住んでいたときは、目と鼻の先に製紙工場があったので、別にどってことないにおいなんだが。

「おおお?なに、海沿いじゃん。高速ってこんなとこ走っていいの?」
由比町の海岸沿いを走る。今までの高速のイメージからかなり外れている風景だ。こんな所に高速造るなんて、台風来たら通行止めになるだろうに。

しかし、目の前に現れる風景は、とても刺激的で、なんとも言えない感覚に陥る。北海道で見ていた風景とは明らかに違う。
もっとゆっくり見たい。しかし、今はスピードの快感がそれを上回ってしまう。

静岡、焼津、浜松と、聞いたことのある地名が次々と現れては、通り過ぎていく。

「ほー、ここが浜名湖か。ウナギがうまいんだっけ?」
それもつかの間、今度は聞いたことのない地名ばかりだ。

「おっ、愛知県じゃん。ってことは、もうすぐ名古屋?」

名古屋が近いことを証明するかのように、少しずつ車が多くなってきた。しかし、太陽はまだ沈む気配はない。

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