Rider's high - 第12章

「はい、これ、ケータイ。とりあえず電源は入るけど、それだけ。動かんかった。ごめんなー」
「ううん、電源入るだけで十分や」
「でもドコモショップ行けば、メモリーだけは読めるかもしれんから、行ってみー」
「うん、わかった。行ってみるけー」

「じゃあ、とうとうお別れやね」
「そうやね、また遊びにきてね」
「うーん、来たいけど、遠いからつらいな。バイクじゃきついだろ」
「そうか・・・」

「でも、ホンマ、楽しかったよ。なんかすっげーリフレッシュした」
「ホントに?」
「うん、楽しい夏だったな〜。色んなヤツと楽しめたし、ミホちゃんにも会えたし」
「あははー」
「もっと休みがあったらバイクでどっか連れてってやったのにな」
「うん、そーやね」
「残念だねー」
「ホンマにね」

「でも、なんか、岩国ってゆーか、瀬戸内っていーねー。海があって、温かくって。また遊びに来たいなー」
「うん、また遊びに来てや」
「おお、そっちも東京に遊びにこいよ」
「うん、近いうちに行くけー」
「来るときに電話すれよ」
「うん、わかった。朝とかにいきなり電話いれちゃる」
「おお、いつでもいーぞ」

「せんぱいも電話ちょーだい?」
「おお、いつでもいーんか?」
「いつでもいい。です」
「わかった。それじゃあ、お別れやね」
「そうやね」
「ありがとな。楽しかったよ」

2人、握手をしながら、

「うん、うちもありがとう」
「じゃあ、またな」
「うん、またね」
「じゃあ、バイバイ」
「うん、バイバイ」

「ちゃんとシートベルトしろよ!」
「夜はいいけー」
「アホ!なんかあってかわいい顔にキズでもついたらどーすんねん!」
「うん」
「じゃ、きーつけてな」
「うん」
「バイバイな」
「うん、バイバイ・・・」

小雨の降る中、白いワゴンRを見送って、再び中へ。
「ミホちゃんは?」
「あした仕事だから帰るって。ケータイは渡しといたよ」
「あー、ミホちゃんに会いたかったなー」

・・・しばらく飲んで、食って、そして、最後の晩餐は終了。
「じゃあ、ワタ、元気でな」
「せんぱいも元気で」

小雨は上がっていた。有楽街をゆっくりと歩く。
「岩国最後の夜かー。楽しかったなー」
「いやー、そう言ってもらえると嬉しいなー」
「おお、友達もいいヤツばっかりじゃん」
「ええ、最初はどーなるかなーと思ったんすけど、あいつら気にくわないヤツは相手にしないって言ってたから」
「あはは、ホントに?でも、楽しくやれたから、良かったよ」
「ええ、そうっすね」
「まあ、最後までオレの名前はせんぱいだったけどな」
「はははー」

「いい夏だったよ。オレの人生の中でも、今年の夏は最高の部類に入るよ」
「よかったっすね」
「ああ。来年は北海道かー・・・」

マンションに戻り、岩国最後の夜を、楽しい想い出が出来たことに感謝しながら、目を閉じた。


・・・朝、目覚めると、外は雨が降っていた。
ジーンズを履き、荷物を整理した。
「おはようございますー」
「はい、タケシくん、コーヒー飲む?」
「あ、頂きます」
「今ごはん出すから」

少しして、タカシくんが起きてきた。
「おあよーっす」
「おーっす」
「あれ、降ってますね」
「ああ、まあ、まだ大丈夫だろー。天気予報まだかな?」

朝食をとりながら天気予報を見る。低気圧が迫ってきている。こりゃ、低気圧に追いつかれないように走らないと。
「ごちそうさまでした。そろそろ行きます」
「気を付けてね」
「ホント、お世話になりました」

荷物を背負って、エレベータで1階へ下りる。
駐車場の隅で、愛車が待っていた。荷物をくくりつけ、そして、来たときと同じように、キチガイ色のカッパで身を包んだ。

「じゃあな、先帰ってるわ」
「きーつけて。オレも週末に帰りますんで」

エンジンを暖め、マンションの駐車場を出る。
さあ、いくぜっ!DragStarよ!

雨の中、またこいつと一緒に走り出す。普通のライダーにとってはイヤな雨も、オレにとっては苦痛ではない。いや、晴れの日に比べると、確かにイヤだが、それでも、なにか、こんな天気でも、おまえは前に進み続ける事ができるのか?と試されているような気がして、それが自分を奮い立たせている。

国道を東へ進む。大竹インターまで走り、低気圧をぶっちぎるために高速へ乗った。
「イヤッホー!ぶっとべー!」
再びRider's Highだ。
東京を出たときと同じように、雨に祟られながら、それでもぶっ飛ぶ。明日から仕事だ。今日は早めに帰らなければ。

ひたすら走り続けると、次第に雨は小降りになり、大阪手前では太陽が微笑みだした。カッパも乾いたので、サービスエリアで一服する。

カッパを脱いで、缶コーヒーを飲みながらタバコを吸っていると、観光バスの運転手が話しかけてきた。
「おにーちゃん、どこ行くの?」
「今日の朝山口出てきて、今日中に川崎まで帰る」
「はー、川崎まで。大変やなー」
「まあ、今日出たときは雨にやられたけど、あとは天気いいみたいだから」
「そうか、きーつけてーなー」
「そっちも」

バイク乗りってのは、なんで話しかけられるんだろう?特におじさんに人気が高いような気がする。どうせならカワイイおねーちゃんがいいのに。
特に高速のパーキングで多い。こんな事も言われたりする。
「このバイク、4000ccかい?」
・・・・そんなにねぇって。

ゆっくり一服していると、オレの目の前に駐車しているバスが動き出した。岡山ナンバー、見るとさっきの運転手だ。軽く手を上げると、運転手も返してきた。お互い気を付けてって、そんな、声に出さない言葉を交わした。
しかし、あんなデカイモノ、それも、うるさい観光客をのせて走り続けるなんて、結構大変なんだろうな・・・。

さあ、こっちも出発しようか。再び愛車に跨り、そして、ひたすらぶっ飛ぶ。岩国で過ごした、楽しかった日々を思い起こしながら。

静岡県に入った頃、ふと高速を降りたくなった。袋井インターで降りて、1号を走る。しばらく走ると、少しずつ流れが悪くなってきた。

「焼津って、たしか漁港がでかいんだよな。なんかウマイもん食えないかな」
そう思い、焼津へ向かうが、渋滞にはまり、さらには道が狭く、頭に来て1号をそのまま静岡へ向けて走った。結局、このままでは到着が遅くなるので再び高速へ。

太陽は西の地平線近くへ降りている。背中に夕日を浴びながら、楽しかった日々を思い出していると、少しずつ、切なさが込み上げてきた。そう、オレの夏休みも終わりか。
なんとなく、最近気に入っていたEvery Little ThingのOver And Overを口ずさんでいた。

夕暮れの道をひたすら走り、気が付くと、見慣れた風景。そして、日が沈み、高速を降り、ゆっくりと寮の玄関へ。

「着いた〜」

ほんの少しだけ放心して、一度寮の中へ入り、ビールを買って、またバイクの元へ。

「お疲れさま。おまえ、よく走ったな。いいヤツだよ、ホント」

ビールを流し込み、タバコを吸う。

愛車と一緒に、楽しかった時間を思い出す。

そして、日常へ、少しずつ戻っていった。



・・・また、いつか、縁があったら・・・・・・



第11章へ    旅 TOPへ